核抑止とはなにか 兼原元国家安全保障局次長と語る その4 日米の核ミサイルが北京や平壌を攻撃
Japan In-depth / 2022年5月28日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・核を妨げるのは核だけであり、核議論をタブー視してはならない。
・中国と北朝鮮の核を抑止するには、北京・平壌をターゲットにした核兵器を日本が持つしか生き残る道はない。
・アメリカの一部の保守系上下両院議員たちの間では、日本核武装容認論が存在する。
兼原:日本が実際に核攻撃を受けたシナリオも考えてみましょう。
まず米軍の核兵器は、ネブラスカ州のオマハにある戦略軍本部で管理されています。核抑止は敵の核戦力を赤外線探知衛星で監視し合うことで成立しているので、ロシアや中国がアメリカに核を撃ち込んだ場合、すぐに衛星が探知して、戦略軍司令官はアメリカ大統領に核ミサイルの反撃許可をもらうため電話をかける。そして大統領は、迷わず直ちに核の反撃許可を命じます。
ところが、中国が日本に核を発射すれば数分で着弾してしまうので、アメリカ大統領が戦略軍司令官から中国による対日核攻撃の一報を受けたときには東京は消えています。戦略軍司令官は核攻撃を受けた日本の状況をみて、大統領にこう電話をするはずです。
「大統領、東京がありません。皇居も総理官邸も……。日本政府と連絡が取れません。核兵器で反撃しますか」
きっとアメリカ大統領はパジャマ姿で「反撃はしない。停戦だ。」と言うでしょう。東京が破壊された日本に同盟国としての価値はなく、米中で停戦合意に入れば、日本だけがいないアジアの平和が回復します。
古森:まさに恐怖を越える日本消滅のシナリオですね。こんな事態がたしかに台湾有事から起き得るわけです。
兼原:だからこそ、台湾有事は絶対に起こさせてはなりませんし、核抑止は完全なものでなくてはなりません。結局、核を防げるのは核だけなのです。日本はアメリカに核抑止のレベルを上げてもらい、戦術核を日本に持ち込むなどして、「コチラも核を使えるぞ」と相手の核攻撃を未然に抑止する必要があります。
こうした核抑止の議論は、本来であれば政治家がしなくてはなりません。国民から国政を委ねられている国会議員には、それを論じる義務があります。しかし戦後、日本では多くの政治家が核の問題から逃げ回り、核議論は一切の深まりをみせなかった。こんな国会は西側主要国のなかでは日本だけです。
古森:同じ敗戦国のドイツとは大違いですね。ドイツは自ら核共有(シェアリング)を申し出て、NATO核の配備・運用を実現している。核シェアリングはあくまで主従関係なので、発射の最終決定権はアメリカ大統領が握っていますが、核シェアリングをしているという事実が存在するだけでも相当の抑止力になります。
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