「新しい資本主義」は新しいのか?
Japan In-depth / 2022年6月5日 11時0分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・「新しい資本主義」実行計画案は、人への投資、イノベーションの促進、新興企業の育成などが核となっている。
・米国型資本主義とは違う価値を重視するという主張は織り込まれていない。
・もっとミクロに踏み込んで丁寧な政策を立案・実行することこそが「新しい資本主義」に中味を入れることになるのでは。
岸田政権は「新しい資本主義」をスローガンとして掲げている。言葉が先行し、何を意味するのかが必ずしもはっきりしないとの批判の声も聞くが、要するに、これまで日本が目指してきた資本主義とは違う資本主義を目指そうということなのではないか。
今日、日本社会の様々なところに滲み出ている閉塞感を思えば、これまでと同じことを目指していけば良いという議論にはなかなかならない。では一体、何がこれまでとは違う新しさなのだろうか。
■ 成長か分配か
日本企業の低収益性、日本経済の低成長を是正するためには、規制を緩和し、競争的環境を作り、イノベーションを促進することが重要という一連の議論が繰り返しなされてきた。しかし、結局のところ、それらの点が目に見えて改善されたとは言えない。だから、片方では、まだまだ努力が足らないので、ここで綱を緩めるべきでないという主張もある。成長と分配という対比で言えば、成長が足りないという議論だ。
他方、格差、地球環境破壊などの問題が新聞紙上で取り上げられない日はない。そうしたことが問題となっているのには、これまでの成長・効率至上主義の帰結という側面があることは否定できない。今後、何か改善を図るとすれば、安全・安心、安定、持続性といった別の価値に、社会としてより重点を置くことになる。例えば分配重視という議論だ。
さらに、こうした対比とは離れるが、金融経済と実体経済の乖離に対する漠とした不安もあるように感じる。特に米国で顕著だが、現在の株価、住宅価格が持続可能なものなのか、これまでの強力な金融緩和によって行き過ぎが生じているのではないかという不安だ。
そもそも、2000年代の終わりに起こった国際金融危機は、高収益、高成長の飽くなき追及という貪欲さの帰結だったという反省もある。さらには、そのような米国型資本主義、あるいは新自由主義への反発から、今日の例えば中国のように、米国型ではない経済を実現しようという動きが生まれたとも言うことができるだろう。
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