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現地語風と自国語風(上)地名・人名・珍名について その3

Japan In-depth / 2022年6月22日 11時0分

ワタナベという姓など、渡辺、渡邊、渡邉などの表記があるし、渡部だとワタベかワタナベか、字面を見ただけでは分からない。


サワダという姓も、澤田しくは沢田と表記されるが、これについては、戦前までは前者が本家筋、後者が分家筋だと判断できた、と聞かされたこともある。


結局、こうした姓の「表記揺れ」があるので、姓名のバリエーションが世界一、などと言われるようになったのだろうが、本当は上には上があるもので、世界中から移民が集まっている米国は、住民登録されている姓の種類が150万に達すると聞く。


話を日本に戻して、佐藤、鈴木という姓が多いことはよく知られているが、これは、それぞれ由来がある。


佐藤というのは、字面から分かるように藤原氏にルーツを持ち、後に台頭する武士階級の間でもポピュラーとなった。源義経に最期まで従った佐藤兄弟などが有名だ。


時代が下って戦国時代が終わり、徳川幕藩体制が確立すると、日本人の大部分が今で言う専業農家となったわけだが、関東や東北の農民の間では、


「うちも昔は立派な武士だった」


という家系伝説を好んで語る人が多くなった。


一方の鈴木は、熊野神社の氏子が伝統的に「鈴木氏(すずきうじ)」と呼ばれたことに由来する。そして、熊野信仰が全国に広まって行くにつれ、鈴木氏の数も増えていった。


かくして1875(明治8)年に、天皇家を除く全国民が「氏」を名乗ることが義務づけられた(同年2月13日付・太政官布告)際、多くの人が鈴木姓を名乗ることとなったのである。


またしても余談にわたるが、翌1876年の太政官指令では原則として「夫婦別氏」とされたものが、1898(明治31)年に制定された旧民法で、はじめて夫婦同氏となった。


もともと、氏というのは男系祖先を同じくする血縁集団の意味で、姓とはいささか異なる概念なのだが、現在では「氏名」と「姓名」は同じ意味ととらえて差し支えないし、詳述する紙数もないので、この問題は棚上げにして、以下「姓」「姓名」で統一させていただく。


ともあれ前述のように、皆が姓を名乗ることになった際、佐藤と鈴木が沸いて出た、もとい、急に増えたのである。これはあながち冗談ごとではない。時代劇を見れば、昔の武士に鈴木姓がほとんどいないことが分かるであろう。佐藤の方は、前述のように源氏の名門だから、割と見かけるが。さらに言えば、どちらも沖縄ではごく珍しい姓とされている。


私の林という姓も、どちらかと言えばありふれているが、中国大陸、朝鮮半島、日本列島にまたがってポピュラーな姓というのは他にまずないから、貴重な存在だと言えるかも知れない。本人は家柄だの血筋だのを云々する趣味はないが。


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