インフレが来た 現在のインフレは本当に一時的か?
Japan In-depth / 2022年6月28日 18時0分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・30年ぶりのインフレ。背後の世界経済の変化には構造的側面もあり、一過性のものかは不確実。
・現在のインフレ期待下でイールドカーブを実質金利が変わらない範囲で全体として少し上方にシフトさせることにも合理性か。
・中長期的にみて、より高いリターンのために企業がリスクをとれる金融政策を維持することが日本経済の実力を高めるのでは。
30年振りのインフレになっている。30年前に社会人になった人は、50歳前後となっているはずだ。それぞれの持ち場で、もうベテランと言われる年齢層だ。より若い人々にとって、消費税増税もないのに社会実感としてこれほどのインフレになることは未経験であり、どう対応すれば良いかすぐ思い付かなくても不思議ではない。日本経済は今、そういう戸惑いの中にある。さらに、グローバル経済に目を広げれば、こうしたインフレが、一時的かどうかについても不確実性がある。経済環境はまた新しい局面を迎えたのかもしれない。
■ 急速なインフレ率の高まり
5月の消費者物価前年比は、総合で+2.5%だった。生鮮食品を除いても+2.1%。昨年の5月はそれぞれ△0.8%と△0.6%だった。一年で様変わりだ。昨年の10月はどちらもまだ+0.1%だったから、半年余りでいきなり日本銀行が長いこと目標としてきた2%インフレになってしまったのである。
当初、2年間程度で実現するとしていたインフレ目標であるから、それに比べて約4倍のスピードでの上昇だ。それほど急激なこともあって、日本銀行が「望んだような」インフレ率の上昇にはなっていない。「望んだような」というのは、国内で生産される付加価値についてのインフレも消費者物価と並行して上昇するインフレと言って良い。
付加価値のインフレとはすなわちGDPデフレータの上昇だ。分配面からみれば、それは賃金と企業収益に関するデフレータも上昇するということだが、そのGDPデフレータは今年の1~3月△0.6%となおマイナスである。つまり、現在のインフレは輸入インフレであって、企業にとってみれば、投入価格の上昇を産出価格に完全に転嫁できていないので、名目の付加価値生産額は輸入品のコスト上昇分、減ってしまっている状況なのだ。
海外からの輸入品の価格が上昇して国内の企業にとっての採算が悪化しているのであるから、景気には下押し圧力が加わっている。そうした下での金融政策は、景気下支えでなくてはならないので、どういうかたちであれ金利を引き上げるということにはならない。日本銀行の現在のスタンスはそういうことだとも理解できる。
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