陰謀説の危険 その5 日本の陰謀症候群を体験して
Japan In-depth / 2022年7月3日 11時0分
そんな時期の私の報道に対し日本側の一部では「ライシャワー発言はアメリカ側の陰謀なのだ」という声が起きた。その陰謀説は複数の日本のメディアで実際に活字にもなった。「日本の核アレルギーを減らすためにレーガン政権がライシャワーと毎日新聞記者の古森を使って意図的な報道をさせたのだ」という説だった。要するにこの発言や報道がアメリカが事前に企図した意図的な陰謀なのだとする説なのである。
だがこの陰謀説には根拠がなかった。想像、妄想の産物だといえる。なぜなら当事者としての私はライシャワー氏にも、アメリカ政府側にも、そんな事前の準備や計画をすることは物理的に不可能だった状況をよく知っていたからだ。
ライシャワー氏にはインタビューの前に質問や討論の内容は具体的になにも知らせていなかった。彼としてはなにがテーマになるかも知らなかったのだ。しかも民主党の年来の支持者であるライシャワーが共和党のレーガン政権と組むはずがない。
だがなぜか日本にいる一部の消息通は当事者の私が知らないことをみな知っていて「陰謀説」を堂々と述べるのだった。ただその「陰謀」を裏づける具体的な証拠を示す人はだれひとりとしていなかった。
第二の実例はその翌年の1982年だった。
この年の6月、アメリカで「IBM産業スパイ事件」というのが起きた。アメリカ側の捜査当局が日立製作所と三菱電機の社員など6人を逮捕するという事件だった。日本側の6人がIBM社の産業技術の機密情報を盗んだという容疑だった。
日本側でのこの事件への反応は冒頭からかなりゆがんでいた。本来ならスパイをしたとされる側の名称をとって「日立・三菱産業スパイ事件」と呼ばれるほうが自然だった。だが日本側ではスパイの主体はあくまでIBMであるかのように響く名称をつけていたのである。
そのうえで、このときも日本側で陰謀説がどっとわき起こった。以下のような内容だった。
「日本企業をアメリカ市場から締め出すための陰謀」
「日本側企業を狙い撃ちしたレーガン政権の陰謀」
「日米貿易摩擦での日本側をワナにかけた政治的な捜査」
こんな言葉が実際に日本側の雑誌や新聞の見出しになった。もちろんそのような趣旨の記事が出たからである。だがこれらの「陰謀」には根拠はなかった。
これらの陰謀説はどんな趣旨かといえば、同事件は単なる刑事摘発ではなく、レーガン政権の諸関連機関が一体となり、日本産業界に目をつけて、うまくワナにはめた政治的攻撃なのだ――という骨子だった。
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