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陰謀説の危険 その5 日本の陰謀症候群を体験して

Japan In-depth / 2022年7月3日 11時0分

この捜査にあたったFBI(連邦捜査局)が日本人容疑者に対しておとり捜査を実施したことが日本側のその種の「説」をことさらあおる結果を生んだようだった。





この陰謀説に従えば、アメリカ側では日本との貿易問題で中心となる通商代表部(USTR)がFBIと組んで、事前に周到な準備をしたうえで刑事捜査に踏み切った、というシナリオとなる。





私は当時、前述のカーネギー国際平和財団での研究活動を終えて、また毎日新聞のワシントン駐在特派員にもどっていた。このIBM産業スパイ事件ではすぐに舞台となったカリフォルニア州のサンノゼに飛んで報道にあたった。現地で各方面の取材にあたったが、いくら調べてみても、アメリカ側の「陰謀」を示すような事実はただの一つも出てこなかった。





私自身の記者としての能力が不足しているからその陰謀の証拠をみつけられないのかもしれないと、謙虚に自省もした。そのうえで取材をさらに徹底させてみても、結果は同じだった。





普通の刑事事件の捜査や起訴という根幹が明白なのだ。





一方、日本にいる「消息通」たちはどういうわけか太平洋のはるか彼方の陰謀を見抜いて、その趣旨を断言するのである。





以上、二つの実例はいずれも40年も前の出来事である。現代との共通性は少ないという指摘もあるだろう。だがその一方、日本での陰謀説の横行というのは、それほどの歴史を有するということなのだ。





陰謀説があくまで根拠のない主張だということを証明するのは容易ではない。そもそも陰謀という現象自体が秘密に覆われ、実態の不透明な出来事なのだ。それを事実だと証明することは根拠さえみつければ、簡単かもしれない。だがそれが事実ではないことを証明するのはもっとずっと難しい。存在するかしないかわからない事象を存在しない、と断ずることには、いつも疑問の余地が残るからだ。





しかしここで指摘した二つの実例は私自身がほぼ当事者だった。少なくとも当事者に接触していた。だからこの事例の実態をかなり正確に知りうる立場にあった。その立場からみて、日本での陰謀説が虚構であることが明白だったのだ。だから簡単には説明のつかない国際的な出来事をみて「陰謀だ」と断言する習癖は日本国内では積年の慣行であることがこの報告でかなりの程度は明らかにできたと思う。日本のなかの陰謀説症候群である。





(つづく。その1、その2、その3、その4)





トップ写真:上院の公聴会でベトナム戦争について証言するライシャワー氏 出典:Photo by © Wally McNamee/CORBIS/Corbis via Getty Images




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