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「イスラム暗殺教団」は都市伝説 異文化への偏見を廃す その1

Japan In-depth / 2022年7月13日 23時0分

これもこれで、英語メディアの勇み足ではないかと思える。暗殺だと言うのであれば、そこに政治的な目的がなければならないが、容疑者は(安倍氏の)政治的信条に対する反感が犯行の動機ではなかったと明言している。


が、今回のシリーズで取り上げるのは、そもそもどうして暗殺を英語でアサシネーションと言うのか、という話をはじめ、異文化に対する偏見・誤解だ。


順を追って解説すると、イスラムの中にスンニ派とシーア派が存在することは日本でも割とよく知られているが、実はシーア派の中にもいくつかの分派が存在する。


ここでは概略のみの解説でお許しを願うが、8世紀末にイスマイール派が誕生し、10世紀末から11世紀にかけて、そのイスマイール派の中からドゥルーズ派やニザール派が生まれた。


この、ニザール派がアサシン派とも呼ばれ、読者ご賢察の通りアサシネーションの語源となった。アサシンのそのまた語源はハシシ(大麻)であるらしい。


彼らは現在のイランの首都であるテヘランの西方にアラムート(鷲の巣)と呼ばれる要塞を築いて、周辺地域を支配していた。


問題はその要塞の中での「信仰生活」で、若者にハシシを与え、殉教すれば天国へ行ける、など洗脳し、暗殺者に仕立て上げていた、というのである。


この話が、十字軍の活動を通じてヨーロッパのキリスト教徒達の知るところとなり、今に至るも「暗殺教団」として知られるようになったわけだ。


ただ、若林博士ら専門家に言わせれば、これは荒唐無稽な都市伝説、もしくは反対派が悪意を持って広めたプロパガンダに過ぎず、鵜呑みにするのは危険だということになる。


たしかにアラムート派は、11世紀の中東において大きな勢力を持った、スンニ派のセルジューク朝から弾圧された。それに対して暗殺という手段で反撃し、宰相アル・ムルクを手にかけている(1092年)。


ならば暗殺教団と呼んでなにが悪いのか、と思われた向きもあろうが、そもそも論から言うならば、これは宗教がらみのテロ・暗殺ではなく、わが国の戦国時代のような勢力争いの中で起きた事件に過ぎない。再び若林博士の言葉を借りれば、


「中東で誰かが死ぬと、ただちに宗教がらみの事件だと思われる。これ自体が大いなる偏見なのですよ」


ということになる。


また、十字軍が彼らに対して恐怖し、暗殺教団の名を広くヨーロッパに知らしめた、と見る向きもあるようだが、前述のように、これは一種の都市伝説で、十字軍の重鎮がニザール派によって暗殺されたと断定できる事例など皆無だ。


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