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「中東=灼熱の砂漠」ではない異文化への偏見を廃す その2

Japan In-depth / 2022年7月20日 23時0分

「中東=灼熱の砂漠」ではない異文化への偏見を廃す その2


林信吾(作家・ジャーナリスト)


林信吾の「西方見聞録」





【まとめ】


・日本人は中東と聞いてただちに砂漠をイメージするが、それが中東の全てではない。


・イスラム原理主義者たちの暴虐ぶりから、誤ったイメージが広まっているが、実際のイスラーム帝国の支配は穏健なものであった。


・「武力に裏打ちされた強権支配より、穏健な文化的支配の方がうまく行く」ということを学ぶべき。


 


最近はどうか知らないが、我ら昭和の小学生は『月の沙漠』という童謡を幾度となく聴かされたり歌わされたりした。文部省唱歌になっていたのだ。


 アラビアの砂漠と聞くと、まずはこの歌を思い浮かべるのは私一人ではあるまい。


 ただ、私自身もそうだが、多くの人がタイトルについて「砂漠」ではなく「沙漠」であることに気づかないまま記憶にとどめていたのではあるまいか。


 そもそもこの歌は、画家で詩人でもあった加藤まさをが、1923(大正12)年、雑誌『少女倶楽部』に寄稿した挿画付きの詩に、当時まだ若手の作曲家であった佐々木すぐるが曲をつけたという経緯で生まれている。


 加藤本人は後に新聞の取材に対して、アラビアの情景をイメージしたと明言してはいるものの、実は海外旅行の経験などなく、千葉県・御宿の海岸の風景からの連想だけで書き上げたというのが、どうやら真相らしい。つまり、砂浜を意味する「沙」の字もあえて選んだに違いないと広く信じられている。


 もうひとつ、日本では1963年に公開された映画『アラビアのロレンス』の影響も無視できないのではあるまいか。少なくとも、私自身にとってはそうであった。


 第一次世界大戦中、ドイツ帝国と手を組んで英仏に敵対していたオスマン帝国に対し、英軍はオスマンからの独立を願うアラブ人の反乱を支援した。その工作の責任者にしてアラブ軍団の指揮官に抜擢されたのがトーマス・エドワーソ・ロレンス少尉(後に大佐まで進級)で、実在の人物である。


 演じたのはアイルランド出身の名優ピーター・オトゥール。映画公開当初、英国ではロレンスと「瓜二つだ」と評判になった。それもそのはずで、二人は親戚なのだ。



写真)映画「アラビアのロレンス」でロレンス役を演じるピーター・オトゥール 1962年


出典)Photo by Columbia Pictures/Courtesy of Getty Images


 その話はさておき、多くの日本人が中東と聞いてただちに砂漠をイメージするのも、あながち偏見だと決めつけるべきではないかも知れない。アラビアのロレンスの英雄譚はいわば序章で、その後も数次にわたる中東戦争や、現在も続くシリアの内戦まで、20世紀を通じて繰り返し戦乱の舞台になったので、報道によって出来上がったイメージもあるだろう。


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