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イスラム金融の虚像と実像 異文化への偏見を廃す その3

Japan In-depth / 2022年7月21日 11時0分

しかしながら、産業革命に乗り遅れたままの借金財政はいかにも無茶で、19世紀半ばにはとうとう「債務管理局」に財政を委ねることとなってしまう。これは債権者たる各国の銀行が共同で立ち上げた機関で、言うなれば国ぐるみ銀行管理となってしまったのだ


その後、中東のいくつかの国は産油国となり、莫大なオイルマネーが出現したが、かなりの部分が欧米の銀行を通じて運用されている。


逆に言えば、第二次世界大戦後に相次いで油田の開発に成功するまでは、イスラム圏など欧米の銀行にとって魅力がある土地ではなかった。またも若林博士の言葉を借りれば、


「1930年代のサウジアラビアなんて、王族でさえ砂漠の地べたに布を敷いて、手づかみで食事していたような国でしたから」


ということなのだ。


日本の銀行は、こうした動きに乗り遅れている感があるが、今後もしもイスラム圏での事業展開を目指す、ということであれば、選択肢はふたつになるだろう。


前述のイスラム金融を、ひとつの「金融商品」として取り入れるか、


「イスラム法に反してはいるが、利子は高い」


と正直に宣伝するか。


銀行からすれば余計なお世話ではあろうが、後者を選択した場合、イスラム原理主義者に狙われるリスクがある、ということは申し添えておこう。


日本には「地獄の沙汰も金次第」という格言があるし、スペイン語圏には「最良の紳士とはドン・ディネーロ(お金様)」という表現がある。


信仰より経済的な利益を重んじるムスリムがそれほど多いとは、私自身いささか意外に思えたのも事実だが、それがまあ、人の世の偽らざる姿なのかも知れない。




 




<解説協力>:若林啓史(わかばやし・ひろふみ)


1963年北九州市生まれ。1986年東京大学法学部卒業、外務省入省。


アラビア語を研修しイラク、ヨルダン、イラン、シリア、オマーンなどの日本大使館で勤務。


2016年より東北大学教授。2020年、京都大学より博士号(地域研究)。『中東近現代史』(知泉書館)など著書多数。


『岩波イスラーム辞典』の共同執筆者でもある。


朝日カルチャーセンター新宿校にて「外交官経験者が語る中東の暮らしと文化」「1年でじっくり学ぶ中東近現代史」を開講中。いずれも途中参加・リモート参加が可能。


(異文化への偏見を廃す その1、その2)


トップ写真:イスラム銀行の外観、アラブ首長国連邦(ドバイ、2017年1月4日) 出典:Photo by Tom Dulat/Getty Images


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