安倍晋三氏を悼む
Japan In-depth / 2022年7月25日 13時1分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・安倍氏は2006年9月に戦後最も若い総理大臣になったが、当時の「安倍叩き」は激しかった。
・2012年に総理として返り咲き、20年までの長期政権となったが、この間安倍氏への国際的な評価は上昇の一途をたどった。
・近年の日本は安倍氏の貢献で民主主義を成熟させ、主権国家としての主権を確立し、日本のよき伝統や文化を復活させ、国際的な存在感をも強めた。
「いまの世間の『やっぱり安倍さんだ』という声を無視はできないでしょう」
私がこんな言葉を向けると、安倍晋三元首相はニヤリと笑った。それまで1時間半ほど憲法改正や日米同盟の強化という堅いテーマを論じてきたそのインタビューでは最後のくつろいだ一瞬だった。私の述べた言葉はもちろん総理としての安倍晋三復帰待望論を意味していた。
「いまは岸田政権を支えていく、これに尽きます」
安倍氏は笑みをさらに崩して、いたずらっぽい語調でこんな答えを発したのだった。安倍氏が暗殺されるほんの2ヵ月ほど前、4月末のことだった。
安倍晋三氏の突然の死は日本の国家や国民にとって測り知れない損失である。彼の貴重な指針やリーダーシップ、そして実行力が突然、喪失したのだ。と同時に長年の交流があった個人としての私はどうしてもこのごく最近の語り合いを思い出してしまうのだ。
安倍氏は2022年はじめにこの日本戦略研究フォーラムの最高顧問に就任した。それを記念して当フォーラム会長の屋山太郎氏が安倍氏との意見交換をして、その内容をメディアに発表することになっていた。ところが屋山会長が突然、体調を崩し、私が僭越ながら当フォーラム顧問として代理を務めることになったのである。
私も安倍晋三氏との知己は長かった。なにしろ初めて出会ったのは、安倍氏が父の安倍晋太郎外務大臣の秘書官とし外務省に入ってきたときだった。このとき私は毎日新聞政治部の記者として外務省を担当していた。安倍氏は今回の対談でも40年も前の私との接触もよく覚えていて、エピソードを交えながら懐かしげに語るのに恐縮してしまった。
以来、私はその後すぐに国会議員となった安倍氏を主としてワシントン、ロンドン、北京という地から考察してきた。外国の駐在地から一時帰国するたびに連絡をとりあって、取材を兼ねた懇談をした。安倍氏は当時では珍しい国際情勢のなかでの日本を正面から論ずる若手政治家だった。ワシントンや北京から短期間もどった私を国会の会期中でも議事堂地下の粗末な食堂へ招いてくれて、世界の情勢と日本とを語りあった。
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