初代首相もテロに斃れた(上)国葬の現在・過去・未来 その1
Japan In-depth / 2022年9月17日 18時0分
話を戻して伊藤博文だが、幼名は利助といい、多くの文献に「長州の下級士族の出身」と記されている。本当はもう少し「複雑な家庭環境」で、1841年、周防国束荷村(現・山口県光市)の農家の長男として生まれた。
父親が破産して離農を余儀なくされたため、萩に移住して長州藩の足軽・伊藤家の養子となり、嫡子たる利助も足軽身分となった。彼が5歳の時の話である。したがって当人には、農村での生活の記憶などはなく、自分は長州藩士の子だ、というアイデンティティを持っていたとしても不思議はない。
ただ、藩士と言っても、くどいようだが足軽身分である。
戦国時代には、足軽は鉄砲や長槍を手に戦場を駆け巡る、今風に言えば歩兵の主力であったが、江戸幕藩体制が確立すると、もっぱら警備や雑用を任務とする「補助的労働力」に過ぎなくなった。身分の点で言えば、士族には違いないが末端に過ぎなかったのである。
18歳の時に上司のコネで、吉田松陰が開いた「松下村塾」に入学したが、身分のせいで塾の敷居をまたぐことは許されず、縁側の外で講義を聴いたという。ちなみに吉田松陰は伊藤のことを、
「お世辞にも才能豊かとは言いかねるが、とにかく実直で裏表がない。僕は好きだな」
と語っていたそうだ。伊藤の方でも恩師である松陰から、いずれ俊英として名をなすべし、と言われて「俊輔」の名を授かった、と自慢し、幕末に志士として奔走していた当時はこの名前で通していたが、これはどうも、今風に言えば「話を盛っている=自分で名乗ったに過ぎないのではないか」と見る向きもあるようだ。
▲写真 安倍元首相が選挙運動中に銃撃された大和西大寺駅前の現場で祈る人々(2022年7月8日、奈良) 出典:Photo by Yuichi Yamazaki/Getty Images
また、こんな逸話もある。
塾生一同で下関の遊郭に繰り込んだ時も、彼だけは酒席に呼んでもらえなかった。言うまでもなく足軽身分のせいである。
小部屋でしょんぼりしていると、一人の半玉(はんぎょく。芸妓見習いの少女)が、徳利と肴を乗せた小盆を、そっと差し入れてくれた。
明治の世となって、極冠にまで出世を遂げた伊藤は、故郷に錦を飾ったが、その際、一説によれば設立間もない警視庁のツテで(!)彼女の所在を突き止め、お座敷をかけた(芸妓を指名して呼ぶこと)。
すでに老妓になっていた彼女は恐縮して平伏するばかりだったが、伊藤は笑顔で、
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