初代首相もテロに斃れた(上)国葬の現在・過去・未来 その1
Japan In-depth / 2022年9月17日 18時0分
「あの時は嬉しかったぞ」
と言葉をかけたとされる。余談ながら警視庁云々は都市伝説で、長州の人脈を頼ったに違いないと私は思っているが。
そもそもこの逸話自体……と語りだすと際限がなくなるので話を進めるが、明治の元勲の中でも伊藤の人気が高かったのは、彼が「成り上がり者」にありがちな傲慢を感じさせなかったからだとは言えるだろう。明治天皇も伊藤のことは特に信頼しており、日露戦争開戦に際して、もしも満州・朝鮮でロシアに敗れ、敵が本土に攻めてくるとなった際は、
「臣・伊藤も一介の書生に戻り、故郷・下関で戦います」
と言上したが、明治帝は、
「それはならぬ。伊藤は最後まで朕の側におれ」
と答えたという逸話もある。吉田松陰が本当に前述のように伊藤を評したとすれば、なかなか人を見る目があったと言えるかも知れない。
その日露戦争開戦に際して、伊藤は土壇場まで戦争回避を主張していた。
前に『二百三高地』という映画を紹介した際にも述べたが、世界最強との呼び声も高かったロシア軍相手に、極東の小さな島国が戦争を挑むなど無茶だ、という理念をしっかりもっていたのである。
当時の日本には「ロシア憎し」の考えに凝り固まった人が多く、伊藤のことを弱腰だと非難したり、ある時など帝国大学の教授連が伊藤に面会を求めて開戦論を説くほどだった。
伊藤は、こう言って追い返したそうだ。
「私は諸君の名論卓説に相談する気はない。大砲の数と相談しておるのだ」
このようなリアリストぶりもまた、伊藤の人気を高めている理由のひとつだろう。ただ、その一方では彼について、
「東洋のビスマルクになりたかったのではないか」
と評する向きもある。
初代の内閣総理大臣として、大日本帝国憲法の起草にあたったことはよく知られるが、この憲法も、日露戦争後の韓国統監就任など、プロイセンの「鉄血宰相」と呼ばれたビスマルクに影響されたに違いない、というわけだ。
影響を受けたか受けなかったかで言えば、間違いなく受けているだろう、と私も思うが、そこまで単純な話でもない。
また、後者が独立派によるテロ=伊藤暗殺へと結びつくのだが、この事件に対する歴史的評価も、一筋縄では行かないところがある。
次回、その話を。
トップ写真:東京の増上寺で行われた安倍晋三元首相への追悼式で花を供える人たち。(2022年7月11日、東京) 出典:Photo by Yuichi Yamazaki/Getty Images
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