「さっぱり分からない」為替レート 変動する為替レートの重荷を背負ってきた日本経済
Japan In-depth / 2022年10月26日 12時8分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・購買力平価と金利平価は為替レートの変動に大きく影響しているが、それ以外の影響因子も様々ある。
・実体経済活動の面で円高が受け入れられないとなると、金融取引の面、即ち金利平価の観点から日本の金利を低くせざるを得ない。
・日本の実質為替レートは90年代後半以降、ずっと円安傾向。経済構造の変化という作業をしてきた結果、半世紀経って振り出しに戻ってしまった。
今月もまた映画の話だが、物理学者が活躍する連作の推理小説が久し振りに映画化されたので鑑賞してみた。主人公は時に両手を上に挙げて「さーっぱり分からない」と笑う。それをみて、これまたちょっとおかしいのだが、為替レートの変動のことが頭をよぎった。為替レートがどうして実際に観察されるように変動するのか。明日のレートはどうなるか。実はさっぱり分からないことが多い。変動相場制に移行して来年で半世紀が過ぎようとしている。この間、日本経済は為替レートの大きな変動という重荷をずっと背負ってきた。それは今の今でも全く変わりない。
■ 2つの顔を持つ為替レート
言うまでなく為替レートは、2つの通貨の間の交換比率だ。それは、そもそも何によって影響を受けるのか。まず分かり易いのが、例えば同じモノは違う国でも同じ価値だろうということだ。ハンバーガーやコーヒーが良く例に引かれるが、同じ製品だったら東京でもニlューヨークでも同じ価値で良いだろうというのは自然な発想だ。
この同じモノの価格が一致するように為替レートが決まるという発想は、しばしば「購買力平価」と呼ばれる。この購買力平価の観点からは、インフレ率の低い通貨に対しては切り上げ圧力、日本について言えば円高の力が働く。
簡単な例で計算してみるとすぐ分かる。例えば、ある時一個のハンバーガーが日本では200円、ニューヨークでは2ドルだったとする。そして翌年、日本では引き続き200円、ニューヨークは10%のインフレで2ドル20セントになったとしよう。この場合、このハンバーガーだけを考えた購買力平価の為替レートは、最初は1ドル100円、翌年は1ドル90円91銭(四捨五入)となる。円高だ。
今年に入って急速に円安が進んだが、インフレ率そのものは日本の方が海外に比べて低い。したがって、この購買力平価の観点からは円には引き続き円高の力が作用しているはずである。それなのにどうして円安なのか。それは為替レートのもう1つの顔である「金利平価」という側面があるからだ。
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