バイデン政権の核戦略の弱点とは
Japan In-depth / 2022年11月5日 23時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・バイデン政権は「核態勢の見直し」を発表し、短・中距離海上発射核巡航ミサイルの開発の中止を決めた。
・アメリカは短・中距離の地上発射核ミサイル保有 はほぼゼロ。
・中・露との核抑止の構図でバイデン政権は、不均衡を是正する見通しなく、新兵器開発には消極的。
アメリカのバイデン政権は10月27日、核兵器に関する戦略の基本方針を総括した「核態勢の見直し(NPR)」を発表した。同時に「国家防衛戦略(NDS)」と「ミサイル防衛見直し」という二つの防衛基本策の文書をも発表した。
「核態勢の見直し」ではバイデン政権がこれまで核兵器の効用について「他国の核使用を抑止することを唯一の目的とする」とした消極的な姿勢から「米国やその同盟国が究極の状況におかれた場合には核攻撃をも考慮する」という積極防衛への転換が打ち出された。
しかしこの「核態勢見直し」ではいまロシアや中国が攻撃力を強める戦術核、戦域核の領域での有力な抑止策となる海上発射の中距離の核巡航ミサイルの開発が中止された。トランプ前政権時代に新開発が決まったこの巡航ミサイルはロシアや中国の戦場核使用の脅しへの効果の高い新兵器とされ、米軍首脳も公式に歓迎してきた。だがバイデン政権の政治判断がそのキャンセルを決める結果となった。
その結果、アメリカの核抑止戦略ではとくに東アジアでの短・中距離の水準での抑止が弱くなるとも指摘されている。
バイデン政権が今回、開発の中止を決めたのは海上発射核巡航ミサイル(SLCM-N)Sea Launched Cruise Missile-Nuclearである。同核巡航ミサイルは潜水艦や海上艦艇に搭載し、低威力の小型核弾頭を搭載する地域紛争用の戦術・戦域核兵器とされる。ミサイルの飛行距離も数百kmから2500kmほどまでの短・中距離に限定され、戦闘や紛争での低次元での核抑止を目的にするという。
米軍は同種の海上発射の核巡航ミサイルの旧型をトマホーク・ミサイルなどとして長年、保有し、配備してきたが、1990年代はじめ第一次ブッシュ政権の時代にソ連共産党政権の崩壊に応じる形でほぼ全面、破棄した。
だがその後、トランプ政権が2018年に「核態勢見直し」のなかで新型のSLCM-Nの開発を打ち出した。その理由は中国やロシアが地域紛争でも使用可能とみなす小型、低威力の核ミサイル各種の製造や配備を進めていることに対抗する核抑止策だとされた。
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