忘れ得ぬドーハの悲劇(下) 熱くなりきれないワールドカップ その3
Japan In-depth / 2022年11月25日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・試合の壊し方とはあと数分で勝てるならば、反則すれすれの時間稼ぎをしてでも、主審に試合終了の笛を吹かせること。
・世界のサッカーのトレンドについて、日本サッカー界はほとんど知識がなく、協会上層部が危機感を抱き初の外国人監督が招聘された。
・当時の日本代表の戦力と経験値を考えたならば、よくぞ最終戦、それもあと一歩のところまで本大会出場に近づいた、と評価できる。
「試合の作り方は教えたが、試合の壊し方まで教えることはできなかった」
前回述べたドーハの悲劇の後、ハンス・オフト監督が口にした反省の弁である。
試合の壊し方とは、勝っている試合をぶち壊すなどという意味では、無論ない。
あと数分で勝てる、という状況ならば、反則すれすれの時間稼ぎをしてでも(あまり露骨にやると、警告の上ロスタイムを取られ、逆効果となるが)、とにかく主審に試合終了の笛を吹かせてしまえ、といったほどの意味だろう。
私が前回、当時の日本代表の最大の弱点とは、国際舞台における経験値のなさだと述べたのは、オフト監督の弁が正しいと考えたからに他ならない。
マリウス・ヨハン・オフトは1947年オランダ・ロッテルダム生まれ。父親はアフリカ系の移民で、4男1女の末っ子として生まれた。日本では一般に「ハンス・オフト」と呼ばれるが、ハンスはヨハンの愛称である。
日本でも今では広く知られているが、オランダ王国は人口1800万にも満たない国でありながら、サッカーだけでなく柔道や空手など、武道・格闘技でも世界屈指の強豪である。
オフトも幼少期からサッカーと柔道を学んだが、次第にサッカーにのめり込むようになり、また非凡な才能を発揮して、高校卒業と同時に、小野伸二らも所属したことのある名門フェイエノールトと契約。プロとしてのキャリアをスタートさせた。その後19歳で徴兵されたが、軍代表チームにも招集され、退役後は23歳以下のオランダ代表に名を連ねるまでになる。
しかしながら20代後半になると度重なるケガに泣かされ、28歳で現役引退。ワールドカップには出場できずじまいであった。
その後は指導者の道を歩むが、ユース(当時は育成選手の別名。今では一般に20歳以下)のコーチ時代、日本高校選抜との親善試合などで、日本サッカー界と接点ができた。
1984年には、日本リーグ(実業団)2部のヤマハ発動機サッカー部(現ジュビロ磐田)のコーチに就任し、2ヶ月という短期契約の中で1部昇格と天皇杯優勝を果たしたことで、その手腕が注目されることとなった。
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