セルビアで再確認、陸上国境の脆弱性
Japan In-depth / 2022年11月29日 14時58分
セルビアといえば、コソボ紛争について国際社会に批判されてきたが、実際にベオグラードでセルビアの歴史を深く知れば知るほど、冒頭述べた複雑怪奇なバルカン半島の歴史にセルビア人が翻弄されてきたことが見えてくる。東方教会系のセルビア正教にとって、北からのカトリック、南からのイスラムの圧力は実に強大だったからだ。
誤解を恐れずに言えば、歴史的に見てセルビアは、オスマン朝の圧倒的に強力な軍事力による侵攻から、欧州のキリスト教社会、特に中欧のオーストリア・ハンガリー帝国のカトリックを守ってきた、と言えないこともない。中世から近代にかけてセルビア王国が最前線で戦わなければ、オスマン帝国の支配はオーストリア・ハンガリーから遠くドイツやフランスにまで及んだかもしれないからだ。
この悲しいバルカン半島をめぐる戦争の歴史をベオグラードで振り返ってみたら、今回一つ新たな発見があった。陸上国境をめぐる紛争は常に「ゼロサムゲーム」であり、容易に「ウインウイン」とはならない、ということだ。オスマン帝国の圧力でセルビア人は北方に撤退し、オスマンは力の真空が生まれたコソボにアルバニア人を移住させた。その地はセルビアであると同時にイスラム系住民の土地でもある。
こうなると、紛争を「ノンゼロサムゲーム」にすることは極めて難しく、万一政治家が解決を急げば、往々にして「虐殺」が起きる。これはコソボだけでなく、パレスチナ問題でも、アフリカの部族間同士の紛争でも、基本的には同じ力学だ。今回のモルドバ・セルビア出張は、陸上国境の脆弱性という、地政学の基本的法則を再確認せざるを得ない旅となった。
次回はいつになるか分からないが、スロベニア、クロアチア、ボスニアヘルツェゴビナ、モンテネグロ、アルバニアを北からレンタカーで縦断できればなぁ、と思っている。モルドバとセルビアでは日本大使館に大変お世話になった。この場を借りて関係者に深甚なる謝意を表したい。
〇アジア
中国でゼロコロナ対策に関し、習近平退陣を求めるデモが北京や上海で起きたと大きく報じられている。「中国で異変が起きている」「国民の不満をそらすため、習政権が台湾統一の動きを加速する危険性もある」と書くメディアもあるが、筆者今は信じない。この分析がどの程度信憑性があるか、今後慎重に見ていく必要があると思う。
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