本気で世界一を目指すために 熱くなりきれないワールドカップ 最終回
Japan In-depth / 2022年12月1日 11時19分
ところが、この構想に真っ向から挑戦してきた者がいた。
韓国サッカー界の若きリーダー、チョン・モンジュン(郭夢準)である。
あのヒョンデ(元ヒュンダイ(現代))財閥創業者の息子で、自身も現代重工業の大株主である彼は、その資金力にものを言わせてFIFA副会長の座に就き、まずはヨーロッパ各国の理事たちに接近した。ちなみに、後年韓国の大統領選挙に出馬しようとしたが、派閥の調整がうまく行かず断念したという。
ここで少し話を戻すが。アベランジェ以前に会長の座を占めていたのは、審判資格を持つようなヨーロッパ出身の学識経験者で、アジア初のワールドカップ開催に、必ずしも前向きでなかったとされている。
もともとワールドカップは、サッカー界における二大勢力とも言えるヨーロッパと南米との交流戦、といった趣があって、この両大陸で交互に開催されるのが不文律となっていた。
しかしアベランジェのビジネス戦略が、FIFAに大いなる経済的恩恵をもたらしたことは争いがたい事実で、早い話がアジアでの開催そのものには、反対する大義名分はなかった。
もうひとつ、アベランジェの票田は同じ理由でアジア・アフリカ諸国であったが、ここが韓国側の巧みなところで、
「分断国家であるわが国でのワールドカップ開催は、世界平和に寄与する。北朝鮮との共同開催も視野に入れている」
とアピールし、アジア・アフリカの票田を切り崩しにかかったのである。
さらに言えば、いや、前にも述べたことだが、この時点で日本はワールドカップ出場経験がなかったのに対して、韓国は5回も出場していた。確たる強化戦略もなかった日本に対し、ドイツ・サッカーを徹底的にコピーすることで、アジアに覇を唱えていたのだ。
招致活動の開始では、日本が先んじていたものの、予期せぬ、しかも予測を大きく超える巻き返しに直面したのである。
かくして、総額でいくらのカネが乱れ飛んだか分からない、とまで言われる事態に発展したわけだが、最終的には日韓の共同開催という形で妥協が実現した。
読者諸賢はすでにお気づきのことと思うが、私が「開催は可能」と述べたのは、ネガティブな意味である。シリーズ第1回でも述べた、開催国の選定などカネでどうにでもなる、という現実があり、それを是認する気になどなれないのが、サッカー好きの本領であろう。
もうひとつの、日本がワールドカップで優勝できる可能性についてはどうか。
こちらの方は、あながち夢物語でもないと、私は考えている。幾度も述べてきたように、日本のプロ・サッカーリーグの歴史とは、ワールドカップなど別の世界の出来事、というところから始まっている。
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