今は昔の♪そのうち何とかなるだろう♪ つまずきのトラウマ残る日本経済【2023年を占う!】金融
Japan In-depth / 2022年12月1日 18時0分
1997~98年の銀行危機を経験した日本企業は、そのようなめったに起こらないショックがあっても企業活動を継続できる力を持つためには、今でいう抵抗力のある(レジリアントな)経営が重要なことを実感していた。レジリアントであるためには、できるだけ身軽でなくてはならない。また、債権者への依存が大きいと、彼らの判断の変更で急に資金繰りが苦しくなることも痛いほど経験した。それらの一種のトラウマは、バランスシートの資産サイドでは流動性のある資産の厚みを増すことに、負債サイドでは自己資本と負債の比率であるレバレッジを圧縮することに繋がった。日本企業は、言わば万が一に備える「ジャスト・イン・ケース」の経営を重視するようになったのである。
奇しくも2000年代以降、欧米先進国の企業は、新興国を巻き込んで、より効率的なサプライチェーンをグローバルに展開し、それを通じてコストを最小化し、利益を最大化する経営モデルにますます舵を切っていった。経営がカンバン方式「ジャスト・イン・タイム」化したと言っても良いだろう。途中、国際金融危機という大きなショックがあったが、その傾向は2010年代に入るまで続き、その中で日本企業のグローバルな相対的地位が低下を続けたのである。
日本の企業経営がジャスト・イン・ケース化する一方、人口の高齢化も速いスピードで進んだが、労働者の雇用機会の確保重視のムードも強まった。それは、バブルの崩壊、銀行危機を通じて、多くの雇用機会が失われるのをみた働く者にとって自然なことだ。
このようにして、日本国内のデフレ均衡の与件が揃った。日本企業はよりコストのかかるジャスト・イン・ケース経営を重視し、したがって国際競争に勝ち抜くための大規模な新規投資についても控え目になる。他方、収益性は改善しないので、コスト・カットを行い、価格競争力で対抗しようとする。そういう努力をしないと、株主への説明責任も果たせない。賃金もコスト・カットの例外ではないが、労働者側は上述のように雇用機会の確保を優先させる。
また、国内の家計はバブルの崩壊に懲りて株式への投資には慎重になる。マクロ経済を刺激するための傾向的な金利引き下げにも関わらず、本格的な高齢化を控えた家計の膨大な貯蓄は銀行預金に留まったままだ。しかし、不良債権処理の苦しみを経験した銀行は、当然、元本が保証される預金によって集めた資金をリスクの高い分野で運用しようとはしない。
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