金正恩、人民生活向上でまたも空手形
Japan In-depth / 2022年12月6日 15時18分
金正恩は、こうした失政を覆い隠すために、ロシアのウクライナ侵略や米中対立の激化を利用する政策に切り替え、韓国における尹政権の登場と米韓合同軍事演習の復活を猛烈に批判して南北対立を煽った。特に年後半からは、核先制攻撃を法制化した上でのミサイル乱射に明け暮れ、主目標とした農業と「食糧難解決」の失敗を米韓に対する挑発行為で覆い隠した。
疲弊が進む農村
北朝鮮では、10月末までに全国的に収穫が終わり、現在は脱穀などの作業が行われているが(地域によってはそれらの作業も終えた)、農民の表情は非常に暗いという。一部では共同農場の生産物を盗み取る事態まで発生しているとのことだ。両江(ヤンガン)道では、食料にするために「じゃがいもの皮」まで集めて糧にしている状態だ。
平安北道(ピョンアンブクト)のある住民は、ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対して、「各協同農場で脱穀が終わろうとしているが、作況が悪く、軍糧米(軍に納める穀物)と国家計画分(ノルマ)を納めると、4人家族の場合で半年分の食糧しか残らない。農民も農場幹部も暗い表情を浮かべている」と伝えた。
営農資材の不足や相次ぐ自然災害による不作だが、国はそれらに対する対策や資金投入を行わず責任を下級幹部に転嫁しており、農場幹部の総和(総括)を行う計画を立てている。その対象になる幹部らはいま、処罰を逃れるために報告をごまかす手はずを整えるために奔走しているという。
金正恩の農業対策は「ホラ防止法」
北朝鮮当局はこうした状況になることを見越して、蔓延する虚偽報告への対策をすでに準備していた。それが、最高人民会議常務委員会が5月31日に採択した「ホラ防止法」だ。
韓国の国家情報院が入手した法律の条文によると、この「ホラ」の定義は「功名心、利己心、責任回避など古ぼけた思想に染まり、自らの部門、単位(職場)の実態を虚偽報告し、国の政策執行と人民生活に厳重な害毒を与える結果をもたらす反国家的、反人民的行為」(第2条)と規定されている。
黄海南道(ファンヘナムド)の韓国デイリーNK内部情報筋は、道内でこの法が適用されたと思われる事例として、穀物生産の模範として評価されていた載寧(チェリョン)郡と安岳(アナク)郡の某協同農場管理委員長が、最近行われた検察所による検閲(監査)で、生産量を虚偽報告していたとして摘発されたと伝えてきた。
農場は、その年の農業に必要な営農資材などの購入のために借金をして、収穫の一部を返済に充てるのだが、摘発された委員長らの虚偽報告の手法は、この返済分までを成果に含めるというものだったという。
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