アニサキス研究第一人者 相馬中央病院原田文植医師
Japan In-depth / 2022年12月24日 11時0分
写真)相馬中央病院にて入院患者に処置中の原田医師(右から二人目の白衣の医師)、処置をしているのは、共同研究者の齋藤宏章医師
筆者提供)
原田医師は、その後もアニサキス症の患者を経験した。刺身を食べた後に二度、アナフィラキシーショックに陥った患者を診察したこともあった。前回はサバアレルギーと診断されたが、アニサキスに対するアレルギーを証明した。注意してみれば、相馬中央病院に受診するアニサキス症患者は着実に増えていた。
原田医師はアニサキス症に興味を持ち、色々と調べ始めた。過去のカルテを調べたところ、相馬中央病院を受診するアニサキス症患者は2019年4件、20年3件、21年7件、22年19件と急増していた。
これは相馬中央病院に限った話ではない。22年8月20日に東洋経済新報が掲載した「【アニサキス症】食中毒激増!背景に2つの理由」という記事には、「アニサキス症が厚生労働省の食中毒統計の病因物質に追加されたのが2012年末。2013年から2016年までの患者数(医療機関から保健所に届け出があった患者の数)は100人程度だったが、2018年以降は400人前後になっている」とある。
アニサキス症の増加の理由については、色んなことが言われている。原田医師が取材した地元の漁師は、「温暖化が影響している」と考えている。その理由は、「(福島沖では)水温が上昇するほど、アニサキスは増殖しやすいから」らしい。現に「水温が高い沖合の方がアニサキス陽性率は高い」そうだ。近年の温暖化が、アニサキスの増殖を後押ししているのかもしれない。
ただ、アニサキス症増加の本当の理由はわからない。私は、魚を生で食べる習慣が海外でも広まり、世界のアニサキス症への認識が深まったことが大きいのではないかと考えている。かつて、アニサキス症は日本やスペインなど一部の国に限られていた。2010年以前は、医学誌に報告されたアニサキス症の論文の9割以上は日本からだったという。しかしながら、近年はアイスランド・デンマーク・イラン・タイ・豪州などからも論文が発表され、2020年以降の日本からの発表は、全体の5割程度だ。このような世界的な関心の高まりが、日本にも影響しているのではなかろうか。
アニサキス症は、従来から過小評価されていた。2022年10月に国立感染症研究所のグループが『新興感染症雑誌』で発表した研究によれば、日本のアニサキス症の推計年間発症数は1万9,737例という。感染症法の規定に基づき、2021年に厚労省に届け出されたのは344例だけだから、大部分は見逃されているのだろう。
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