「21世紀の税制」を望む(下)【2023年を占う!】経済2
Japan In-depth / 2023年1月1日 11時0分
ただ、批判するばかりで具体的な提言をしない、ということでは市井のジャーナリストと言えど、無責任の誹りを免れ得ないだろう。
私がかねてから訴えているのは、フランスの経済学者トマ・ピケティが唱えた、
「金融資産に課税することで、税金というシステムが本来備えていたはずの、富の再分配という機能を取り戻す」
という理念を真剣に検討すべきだ、ということである。
トマ・ピケティは1971年フランス中央部クリシーの生まれ。
両親は裕福な階層の出だったが、労働組合運動の活動家として1968年のパリ五月革命にも参加した「フランス版・団塊の世代」だという。
当人は非常に学業優秀で、多くの学者や官僚を輩出した、パリの高等師範学校(ENS)を経てロンドンのLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス=ロンドン大学政治経済校)に留学。27歳で経済学博士となっている。
もともと格差問題に取り組む若手の経済学者として注目されていたが、2013年に刊行された『21世紀の資本』で一躍時の人となった。前述の、金融資産に課税すべきという議論は、この著作の中で開陳されたものである。
邦訳は2014年にみすず書房から刊行され、大いなるインパクトをもたらした。『釣りバカ日誌』という漫画(やまさき十三・原作、北見けんいち・画、小学館)にまで、この議論が引用されたほどだ。
「それができれば苦労はしない」といった程度の扱いであったが。
これが日本のサラリーマン(漫画の舞台となる会社は中堅ゼネコン)の最大公約数に近い意見なのかどうか、早計には言われないことだが、経済学者の中にもピケティの著作を批判的に紹介した人が結構いたことは事実である。
その論旨はおおむね共通していて、今や社会的不平等(=格差)の拡大が世界中で大きな問題になっていることは認めつつも、その主因は「英米においてはエグゼクティブのあまりに高額な給与、日本においては非正規雇用の拡大にある」として、税制と資本の関係だけで語りきれるものでもあるまい、といったところだ。
これはこれで正鵠を得た指摘だとの評価もあり得よう。しかし、だからと言って、「金融資産に課税すべきではない」とする論拠になるとは考えにくい。
読者の便益を考えて、問題をごく単純化して述べさせていただこう。
2021年の統計によれば、わが国の大企業の内部留保の総額は500兆円以上である。
仮にその10パーセントを税収として国庫に納められれば、それだけで国家予算の半分をまかなうことが可能だ。現状税収の33%ほどを占めている消費税を、一定期間凍結しても大丈夫ではないか。
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