先制攻撃をしないためにこそ必要な核抑止力
Japan In-depth / 2023年1月11日 18時0分
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・岸田政権が「安保3文書」を閣議決定した。各政党からは『反撃能力』について様々な意見が出た。
・問題は、中国や北朝鮮が日本に対し「核の恫喝」に出てきた場合である。
・英国型の独自核抑止力を整備すべき。すなわち潜水艦に核弾頭搭載ミサイルを装備し潜行させる「連続航行抑止」という戦略である。
岸田政権が国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定(2022年12月16日)したことを踏まえ、同12月20日、立憲民主党が「外交・安全保障戦略の方向性」と題する文書を発表した。
玄葉光一郎元外相(ネクスト外務・安全保障大臣)が中心になってまとめたという。
その中で、「我が党は、政府与党が容認したスタンド・オフ防衛能力等による『反撃能力』については以下の懸念を持っている」として、こう述べている。
《政府見解では、「我が国に対する攻撃の着手」があれば先制攻撃にあたらないとされているが、正確な着手判断は現実的には困難であり、先制攻撃となるリスクが大きい》
これは理論的には正当な懸念である。
後で触れるように、政府の安保3文書は「着手」の時点で反撃とは書いておらず、「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、…更なる武力攻撃を防ぐために」としているが、ともあれまず、政界におけるここ数年の議論を振り返っておこう。
2021年9月19日、自民党総裁候補の1人としてフジテレビの番組に出演した河野太郎は、敵基地攻撃能力について次のように発言し、否定的態度を取った。
《敵基地なんとか能力みたいなものは、こっちが撃つ前に相手が撃たなかったら相手の能力が無力化される。(相手に先制攻撃の誘惑を与え)かえって不安定化させる要因になる(カッコ内島田)》
「なんとか能力」という小バカにした言い方や、建設的代案を示さない辺り、河野の不見識が表れているが、相手の予防攻撃を惹起しかねないというのは1つの論点である。
同様に、公明党の山口那津男代表も、「敵基地攻撃能力が国会で議論されたのはもう70年も前のことで、いささか古い議論の立て方だ」と繰り返し述べていた(例えば2022年1月9日のNHK番組で)。山口も建設的な代案を示していない。
山口のいう「70年も前」の議論とは、次の鳩山一郎首相答弁(1956年)を指す。
《わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います》
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