日本人とビール 酒にまつわるエトセトラ その4
Japan In-depth / 2023年1月23日 15時54分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・南蛮貿易により、オランダ語のビエールBIERという単語が日本に伝わった。
・純然たる国産ビールが登場するのは1872(明治5)年で、渋谷庄三郎が大阪で「渋谷麦酒」を設立したのが皮切り。
・明治初期にはビールに税金はなかったが、昭和初期に軍備増強のため課税されるようになった。
「ビール、ビール、なぜあなたはビールなの?」
我ながらしょうもないオヤジギャク(しかも季節外れ!)がつい口をついて出てしまうのは、この原稿を書くためにビールの歴史や日本人との関わりについて調べているうちに、早く書き上げて一杯、という思いにとらわれてしまったからである。季節外れと述べたが、こういう寒い時期に、熱々のキムチ鍋と冷たいビールの取り合わせなど、至福ではないか。
気を取り直して、本題。
ビールは前回述べたように古代メソポタミアで好まれ、ギリシャ、ローマを経てヨーロッパに広まって行った。
その過程で「飲む」という意味のビベールBIBEREというラテン語が、ビールの呼称となったとされる。これも前回述べたことだが、大昔は生水よりビールの方が安全、という共通認識があって、代表的な飲み物とされていたことがうかがえる。
ちなみにワインという呼称もラテン語のヴィヌムVINUMから来ているが、こちらはそのものズバリ「ブドウ酒」の意味だ。
いずれにせよラテン語がヨーロッパで広く使われるようになったことから、様々な言語で類似の単語が生き残っているが、当然ながら微妙な差異は生じている。
たとえば現代イタリア語で「飲む」はベーレBERE、ビールはビエレBIEREと使い分けられており、イタリア語と同じくラテン語起源のスペイン語では「飲む」がベベールBEBERであるのに対し、ビールのことはセルベーサCERBEZAと言う。
辞書によるとゴール語起源であるらしい。ゴール語は紀元前のケルト人が用いた言語で、現在のフランスを中心にイベリア半島から小アジアにまたがって広く話されていた。
日本はと言うと、まず主要な穀物が麦ではなく米であったという事情から、長きにわたってビールの存在さえ知られていなかったが、やがてヨーロッパ世界との接点ができたことから、オランダ語のビエールBIERという単語が伝わった。これがビールの語源である。
もう少し具体的に述べると、戦国時代に始まった「南蛮貿易」は、江戸幕府が海禁政策=世に言う鎖国を実施したため、事実上廃されてしまったが、長崎の出島など限られた場所では、オランダ商人との交易が細々と続いていた。
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