ワイン通=オタク論 酒にまつわるエトセトラ その7
Japan In-depth / 2023年2月1日 7時0分
たとえとして適切か否か、自信は持てないのだが、兵器のスペックにだけやたら詳しく、実戦の最中に講釈を垂れるような軍事オタクが同じ陣地にいたら、最初にそいつの息の根を止めておかないと、こちらは命がいくつあっても足りないというようなものである。
与太話はさておき、日本人とワインとの関わりについて少し見てみたい。
前にも述べた通り、ワインは数千年も前から西アジアで醸造が始められ、ギリシャ、ローマを通じて地中海世界に普及した。ただしその後、北アフリカについては大半がイスラムの勢力圏となり、飲酒の文化そのものが廃れたため、ヨーロッパ南部が主たる産地となったのである。
たとえばドイツだが、この国はビールのイメージが強いけれども、それはライン川以北の話で、以南はワイン文化圏である。と言うより、ヨーロッパ全体が、ライン川を挟んでワイン文化圏とビール文化圏に二分されているのが実態に近い。
日本には、ビールと同様、戦国時代に始まった南蛮貿易を通じてもたらされた。
1948(文明15)年、関白近衛家の人間が「チント」を飲んだと記録されているが、これはまず間違いなく、赤ワインのことだろう。スペイン語とポルトガル語では、いずれも赤ワインをヴィーノ・ティントと言う。字義通りには「染められたワイン」という意味だが。
ビールと同様、明治維新以降に本格的な輸入が始まり、また国内での醸造も奨励された。
ただ、普及の度合いではビールにかなり後れをとることとなる。
理由は単一ではないと思うが、世上よく言われるのは、米飯と魚料理に慣れ親しんできた日本人には、ワイン(とりわけ赤)のタンニンから生じる渋みが喜ばれなかった、ということだ。ビールの苦みはどうなのか、と言われるかも知れないが、実際には日本料理の世界でも、鮎とビールなど「出会いのもの」と呼ばれ、その組み合わせが賞賛されている。
こうした日本人の嗜好が、国産ワインにも影響を及ぼさないはずはなく、蜂蜜等で味付けした甘いワインが主流となった。赤玉ポートワインが典型だが、戦前の日本人は、
「ワインは甘いもの」
と思い込んでいたフシがある。
たしかにヨーロッパにもポートワインは存在する。ポルトガル北部・スペインとの国境に近いドウロ地方の名産で、ポルト港から出荷されるのでこの名がある。
その製法はと言えば、醸造の過程で度数の高いブランデーを添加し、これにより果糖をアルコールに転換する酵母の働きが止まってブドウの甘みが残り、なおかつ度数も高くなるというわけだ。読者ご賢察の通り、これはデザートワインである。
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