牛乳の市場開放にはメリットもある 今こそ「NO政」と決別を その5
Japan In-depth / 2023年3月31日 11時0分
こうした事態を憂慮した、国内の酪農家、それも飲料乳を主として生産する、北海道以外の酪農団体が政治家に働きかけて、輸入を阻止したという経緯があった。
一方、前述のようにバターなどの加工原料を主とする北海道の酪農家には、設備投資などに補助金を出したのである。もはや保護貿易どころか、社会主義的な計画経済と言うべきである。
しかも、牛乳の生産と流通にはもうひとつ問題がある。牛は暑さに弱いので、夏はあまり乳を出さない。この結果、飲料の需要が多い夏は品薄で、冬になると乳がたくさん出るので、しばしば過剰になるため、余剰となった分は乳製品にし、夏にまた牛乳に戻す、という方法がずっと続けられた。
2014年のバター不足は、前年の猛暑も関係していると言われたが、いくら計画経済でも気象まではコントロールできない。
こうした酪農の在り方を一新し、牛乳を貿易商品とすることで、事態は改善されるはずだと、私は考える。
どこに売るのかと言われれば、答えはある。中国だ。
新型コロナ禍が、ようやく終息の兆しを見せ始めた昨今、中国からの観光客も増えつつあるが、彼らが日本製の粉ミルクを「爆買い」している、との報道もあった。
日本でも過去には、粉ミルクによる薬害や食中毒などが起こされたが、その反省を踏まえ、今では「安心・安全」との評価が復活している。
子供に安心・安全なミルクを与えたいという親心には、人種国籍もイデオロギーも変わりない。さらに、国内の経済活動が復活しつつある中国は、飲食店などでの牛乳の需要が急増したのを受け、デンマークやニュージーランドから大量の牛乳を輸入しているが、前述のように牛乳は腐りやすいため、殺菌し無菌包装した、いわゆるロングライフ牛乳ばかりだと聞く。
この点、地理的に近い日本からは、新鮮な牛乳を輸出できる可能性が高い。
ただし、今日の明日で実行できることでもないし、さらに言えば、今ここで余剰牛乳の販路を確保できたとて、気候の問題などでまた状況が変わったら……という懸念もある。
こうしたことを踏まえて、酪農に限らず日本の農業全体を再建して行く必要があり、そのためには補助金などの税負担も生じるだろうが、これは「食料安全保障」という考え方に基づいた、適正な支出であると考えるべきだ。
具体的にどういうことかは、次回。
(その1、その2、その3、その4)
トップ写真:飼料を食べる搾乳牛 出典:Denis Suslov/ Getty Images
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