食料安全保障に目覚めよ(上)今こそ「NO政」と決別を その6
Japan In-depth / 2023年3月31日 23時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・核戦争になれば世界6億人近くが餓死に直面する。
・食糧増産が世界の人口増に追いつかず近未来の食糧不足が懸念。
・食料は今や石油と並ぶ戦略物資になっている。
食料品・日用品の値上げラッシュに歯止めがかからない。
昨年来、野党などは「岸田インフレ」などと攻撃したが、これは当を得ていないと、多くの人が思ったのではないか。
強いて言うなら「プーチン・インフレ」で、ロシアによるウクライナ侵攻と、これに対して西側諸国が実施した対ロ経済制裁の結果として、石油や天然ガスなどのエネルギー、さらには小麦をはじめとする食材の価格が高騰したわけだから。
今回のシリーズは農業・農政がテーマだが、これは当然ながら食糧問題に直結している。
戦争で原油や食料の輸入に支障を来している事態に対して、現政権はいささか緊張感が足りないのではないか。その意味では、岸田インフレという呼称の是非はともかく、首相にはなんの落ち度もない、とまでは言えないと思う。
実際問題として(考えたくもないことだ、というのが本音ではあるけれど)、この紛争が核戦争に発展したならば、欧米の物流はほぼ全面的に止まり、そうなれば世界人口のうち6億人近くが餓死の危機に直面する、との試算もある。
その(つまり餓死の危機に直面する億人近くのうち)3分の1は日本人だ、という推論までネットの一部では開陳されているが、明確な根拠など示されていないので、ここでは深く立ち入ることはしない。
ただ、単なる妄想だ、などと斬り捨ててよい話でもない。
シリーズの最初の方で述べたが、戦争のような事態がなくとも、食糧の増産が人口増加に追いついていない上に、その食糧の分配がきわめて不平等であるからこそ、近未来の食糧不足が懸念されていたわけだ。
わが国の場合、食力自給率が低いにも関わらず、飢餓に対する危機感が薄いどころか、飽食とまで言われる状況であったのは、工業製品を輸出して農産物を輸入する、という経済構造が、未来永劫に続くかのように思われていたからである。
実際にバブル景気の頃、首都圏の事業用・住宅用物件が不足しているとして、
「首都近郊の農業を〈安楽死〉させてでも、宅地開発を進めるべき」
「金融資産も外貨も、今やあり余っている。そうした資金でカリフォルニア州やアーカンソー州の水田を大量に買って、米はそこでつくればよい」
などと述べてヒンシュクを買ったエコノミストがいた。
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