食料安全保障に目覚めよ(下)今こそ「NO政」と決別を 最終回
Japan In-depth / 2023年4月3日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・農協が米だけは全量を買い上げるという、現在の食糧管理制度はすでに時代遅れ
・具体的な方策として、米の飼料化を推進するということが考えられる。
・米までも輸入に頼っては、国家の自立さえも困難になりかねないため、日本人は知恵を働かせ、食糧危機に向きあう必要がある。
農協が米だけは全量を買い上げる、という現在の食糧管理制度は、すでに時代遅れなのではないか。適正な市場価格で流通する仕組みを作るべき、という点については、異論など出ないだろう。
具体的な方策として、米の飼料化を推進するということが、まず考えられる。今こそ日本人は知恵を働かせて、食糧危機に立ち向かう時なのだ。
「日本は自動車やハイテク家電を米国に売り、その利益で米を買えばよい」
……これは、食料が今や戦略物資になっていることを理解しない愚論で、かつ食料安全保障の観点から受け入れがたい暴論であると、前回述べた。
冷戦時代、実はソ連邦は米国産の小麦を輸入していたのだが、米国は一度ならず制裁と称して禁輸処置をとったことがある。これに対してソ連邦の側も、米国以外にも売ってくれる国はあるさ、とばかりにアルゼンチンなどから輸入した。
これは小麦だから可能であったという話で、米の場合、日本の「ご飯」であるジャポニカ種は、米国以外に輸出余力のある国はほとんどない。
牛乳のように、腐りやすいため貿易商品に向かないという、自然の障壁も存在しない。
とどのつまり、米までも輸入に頼るようになっては、日本という国家が政治的・経済的に自立して行くことさえ困難になりかねないので、これは食料に限った問題でなく、まさに安全保障の一形態なのだ。
あえて極端な例を引かせていただくと、1945(昭和20)年の8月に、大日本帝国が無条件降伏を決意するに至ったのは、日本列島の天候が不順で、農村の働き手が根こそぎ戦場に駆り出されたという事情もあり、歴史的な不作が予想されたことも一因であった。
「腹が減っては戦はできぬ」
とはまさに至言で、現実問題として、昭和天皇の「聖断」をあおぐことになる御前会議に先駆けての最高戦争指導会議において、本土決戦をやる以前に多くの国民が餓死の危機に直面する、との予測データも示された。このエピソードは『日本のいちばん長い日』という映画にも描かれている。
そうは言っても……と反論が聞こえてきそうだ。
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