週刊誌記者が見た、東大を訴えた青年の素顔
Japan In-depth / 2023年4月7日 23時0分
松岡瑛理(ライター、記者)
【まとめ】
・新型コロナに感染し必修授業を受けられず留年となり東京大学を訴えた杉浦蒼大さんを取材。
・杉浦さんの魅力はその「底知れぬ生命力」。
・裁判は杉浦さんにとって最終手段。提訴までの間、様々な手段で大学との対話を試みていた。
はじめまして、ライターの松岡と申します。現在、週刊誌の記者として、主に教育方面の記事を執筆しています。
『週刊金曜日』3月3日号で、東京大学理科Ⅲ類の学生・杉浦蒼大さんが新型コロナウイルスに感染し、必修授業が受けられず留年となったことを不服とし、東京大学を訴えた一件について取材記事を寄稿しました。杉浦さんについてなぜ記事を書こうと思ったのか、取材を通して見えてきた本人の素顔など、誌面には収まり切らなかったことをお伝えしたいと筆を執りました。
私が初めて杉浦さんの名前を知ったのは2022年の夏のこと。彼の出身校である灘高校の担任であった片田孫朝日さんがSNSの投稿で、8月4日に杉浦さんが文部科学省で開いた記者会見や、その後に東大が大学の公式ホームページにアップした非難文書について言及した投稿を見かけたことがきっかけでした。私は記者になる前、大学院で社会学を専攻しており、同分野の研究者でもある片田さんとは以前から知り合いの関係にありました。
全国の大学で、コロナに感染した学生が定期試験を受けられずに単位不認定となってしまうケースがあること、東大の学生らがその件で問題提起をしていることは、ニュースなどを通じてうっすらと見聞きしていました。渦中にいる人物が名前と顔を出して会見に臨んでいること、それが知人の教え子であったという事実に大きな衝撃を受けたことを覚えています。いち学生が所属大学を訴えるのに多大な勇気を要することは想像に難くなく、そのリスクを負ってまで裁判に及んだ杉浦さんとはどのような人物なのか、強い興味を持つようになりました。
杉浦さんのインターン先である医療ガバナンス研究所の上昌広先生は、別の取材で何度かお話を伺ったことがありました。上先生からの案内で、医療ガバナンス学会のシンポジウムに杉浦さんが登壇することを知り、同年秋、本人と対面を果たすことができました。
強い気持ちで起こした裁判だが、実際には「留年措置が存在するかどうか」といった形式論に時間が費やされ、本筋から話が逸れてしまっている。これまで自分が何と闘ってきたのかがわからなくなってしまう時期もあったが、立ち直ることができたのは、周りにいる人達に支えてもらったおかげ。責任(レスポンシビリティ)の語源は応答し続けること。皆の前で応答し続けることが自分に果たせる最大限の役割だと思っているーー。東大が非難文書を出した後、SNS上では彼に対して様々な見方がなされましたが、一つひとつ言葉を選びながら話す杉浦さんは、いたって真摯な印象の男の子でした。
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