平成11年の年賀状②「日の要求と青い鳥」
Japan In-depth / 2023年4月14日 23時0分
鷗外の死に対しての態度ということになると、遺言に触れたくなる。
「死ハ一切ヲ打チ切ル重大事件ナリ奈何ナル官憲威力ト雖此ニ反抗スル事ヲ得スト信ス」と、死の3日前に友人の賀古鶴所に口述したという遺言である。
その後には、
「余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス。宮内省陸軍皆縁故アレドモ生死別ルヽ瞬間アラユル外形的取扱ヒヲ辭ス。森林太郎トシテ死セントス。墓ハ森林太郎墓ノ外一字モホル可ラス。・・・宮内省陸軍ノ榮典ハ絶對ニ取リヤメヲ請フ。唯一ノ友人ニ云ヒ殘スモノニシテ何人ノモ許サス。」(句点は筆者が補したもの)
この部分を再読していて、私は石原慎太郎さんのお別れの会を思い出していた。確かに天皇陛下からの祭粢料の袋が置かれていた。
それだけではない。私は出版予定の『我が師 石原慎太郎』のなかに、「そのすぐ右に、額縁に入った勲章についての賞状額がある。明仁と、くっきりと署名がされている。旭日大綬章である。平成27年とあった。安倍晋三首相の署名もある。さらに向こうには、その勲章そのものが鎮座している様子だった。しかし、そこまで歩いて行って確認するわけにはいかない。祭粢料に戻って左を見ると、「従三位」とあって、岸田総理が署名している。」と書いている。
人は誰でも死ぬ。例外はない。石原慎太郎さんは89歳だった。石原さんが唯一私淑したという賀屋興宣は88歳だった。二人とも、死ねば一人切りで暗いトンネルをとぼとぼと歩き続け、そのうちに世間はもちろん家族にも忘れられてしまう。それどころか、自分でも自分のことを忘れてしまうのだと、独特の死後観を述べている。
漱石は49歳である。谷崎潤一郎79歳、永井荷風79歳、そして伊藤整64歳。
こうして並べてみると、まず、誰も自らの寿命について知らないままに生き、死んだのだという感慨がある。
江藤淳は67歳で死んだ。自殺したのである。芥川龍之介も自殺している。35歳であった。
私は25歳で死んでしまった青年を知っている。彼は生きようとしていたのに、くも膜下出血で寝ている間に死んでしまったのである。死んだときに自分が死ぬとわかっていたのかどうか。ガーンとバットで殴られたような感じがすると、生き延びた人は言うらしい。医者がそう解説している。彼について、私は「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」という漱石の俳句を思う。秘かな思い人でもあった大塚なお子が35歳で死んだときの句である。35歳も人生なら25歳も人生である。私の父親は95歳だった。母親は87歳。寿命は人が決めるものではない、天が決めるものだというのが私の考えである。しかし、天は私の寿命について教えてくれない。
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