平成11年の年賀状②「日の要求と青い鳥」
Japan In-depth / 2023年4月14日 23時0分
安倍晋三元総理は、死ぬときに自分が死ぬとわかっていたのだろうか。
シーザーは突然の死が最善の死だと言っていたという。シーザーの死も安倍晋三元総理の死も、また井伊直弼の死も、どれも突然の死である。シーザーのいうところの最善の死である。
自殺した人間は違う。
寿命を自ら決めて実行した男が53年前にいた。三島由紀夫である。彼については石原さんに話したことがある。『我が師 石原慎太郎』に書いている。
自分の死について考えることが多くなった。73歳であれば、もうこの世にいない知り合いも多いのである。
まず、どういう原因で死ぬのかと考える。
私は健康診断を毎年欠かさず受け、かつ毎月血液を採取して検査してもらっている。その際には血圧を測る。血圧はその他にも週一回の鍼の前後に測る。週二回の運動の前後にも測る。医師の処方してくれる薬を多種飲んでもいるのである。
鷗外は、決して医者の診断を許さなかったという。結核とわかっていたから家族のために隠したかったのである。
鷗外には二つのことを聞いてみたいものだと昔から思っている。
一つは、いうまでもない、ドイツから来た女性のことである。私が鷗外にたずねてみたいのは、「あの女性、独逸日記に出てくる「カニ屋」と日本人留学生が呼んでいたクレッブス珈琲店にいた「ツルゲエネフの説部を識る」女性のことですよね。加治という日本人とごいっしょだったと書いていますが、でもその女性は「売笑婦」だったとも書いてあります。だから帰国後『舞姫』を書いて、森林太郎のドイツ正史をしたためておく必要があったのではないですか?」という質問である。
もし怒らないで正直にはなしてくれれば、たぶんそうだと、その女性を心から愛したのだと、150年経った今となっても涙を流さずにはいないだろうと私は期待しているのだ。
「牛島さんとやら、ありがとう。そのとおりだよ。『クロステル巷の古寺』の『閉ざしたる寺門の扉に倚りて、聲を呑みつつ泣く一人の乙女』というのは、本当はそのカニ屋でであった女性のことだったのだよ。寺院の傍らで泣いていた16,7歳の乙女にしたのは、あなたの見通したとおりさ。私がベルリンで娼婦に本気になってしまったことは、留学生取り締まりの福島大尉だけじゃない、軍医の大ボスの石黒忠悳にも知られていたことだからね。だから、百年後を相手に私は書いた。ね、牛島さん、文章の力というものはそういうものじゃないかね。」
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