どうなるグローバル経済―どう転ぶか分からないナイフの刃の上―
Japan In-depth / 2023年5月12日 11時27分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・米金融システム不安の影響は、日本経済にまだ直接は及んでいない。
・米経済が景気後退局面に入った場合、日本として実行できる政策があまり見当たらない。
・日本でできる金融政策は、YCCの建付け変更の意味を理解すること、長期的に経済活動を活性化させる歳出を考えること。
ナイフ・エッジという言葉があるが、グローバル経済はこれからどうなるのか不透明感が強く、まさにその上にいる感じがする。どちらかというと、慎重な見方の方が多いようだが、しかし失速が確定した訳でもない。
米国では金融システム不安がなお燻っており、さらに政府債務の上限が近づいている。また欧州では、インフレ圧力が米国以上に根強く、銀行貸出の厳格化の影響も出始めているようだ。さらに新興国経済でも、そのような欧米経済の状況を受け、コロナ禍からの回復の動きは今一つ鈍い。そうしたグローバル経済の高波の影響は、日本経済にはまだ直接は及んでいないようだが、日本銀行の金融政策がどうなるかとも絡めて、様々な不確実性がある。
各国の政策当局は、これらの様々な要因を勘案し、うまくインフレ圧力を抑え、昨年生じた供給面のショックを乗り越え、ソフトランディングが実現できるよう最善を尽くすだろう。しかし、その結果うまくいくかどうかは、なお五里霧中だ。今日のグローバル経済は、まさにナイフの刃のような不安定なところにあり、どちらにころぶかよく分からない。
■米国の金融システム不安は完全には払拭されていない
欧米では、昨年以降の急速な金利上昇の結果、金融機関が保有している債券に含み損が発生した。3月に相次いで起こった米国での地方銀行の破綻は、それを嫌った大口の預金者が、インターネットを通じて素早く預金を引き出したところから始まった。
そうした事情は、どの銀行にも共通だが、米国の大銀行については、先の国際金融危機後、規制が強化され、それだけ備えも手厚いので、今のところ大きな問題は起きていない。不安なのは、大銀行ほど厳しい規制を受けていない地方銀行の経営がどうなるかだ。これまでのところ当局の素早い対応もあって、何とか不安の連鎖は喰い止められている。このままうまくいくかどうかが非常に重要なポイントだ。
一方、インフレ圧力抑制のための金融政策は、引き続き引き締め方向にある。ただ、金融システムの不安定化は、日本の1990年代を思い出すまでもなく、経済活動に抑制的に作用するので、利上げによる需要抑制はその分不要になる筋合いだ。だからこそ米国の連邦準備理事会(FRB)も、政策金利の引き上げ打ち止めのサインを出した。
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