「睡眠薬で死ねるんですか?」
Japan In-depth / 2023年5月26日 11時0分
原田文植(相馬中央病院 内科医長)
【まとめ】
・一般的に出回っている睡眠薬や向精神薬は大量に飲んでもなかなか死なない。
・麻酔薬に近いような薬剤との併用などがあれば致死性が増す可能性はある。
・アルコールを併用していた場合、嘔吐物を誤飲し窒息した可能性もある。
会社経営をしている70歳の男性に外来で質問された。「最近の睡眠薬では死ねません。しっかり生きて仕事して下さい、私のためにも」と返答した。男性は過去に心筋梗塞の既往がある。
歌舞伎俳優が自宅で両親とともに倒れているところを発見され、救急搬送された。発見当時(5月18日)、両親は死後1~2日経過していたとのことだが、現時点(5月22日)で詳細はあきらかではない。報道によると、向精神薬の大量服薬が死因として疑われている。俳優本人も発見時、意識が朦朧としていたが、現在は警察からの事情聴取も進んでいるとのこと。当事者家族にしかわからない深い闇があったのだろう。
●なぜ大量の向精神薬を入手できたのだろう?
眠剤や向精神薬は原則一か月間しか処方できないのだから、本来患者さんは大量に入手できないようになっている。ただし、それはあくまでも外来を通して処方される場合に限り、である。芸能人などの著名人は一般の方々と同じように外来待合を通じて受診することは困難だ。これは彼らを特別扱いしているからではなく、待合室がパニックになってしまうからだ。
毎月受診することも難しいので準長期処方のように長く出すこともある。実際、長期に投薬する裏技は存在する。定期処方として眠剤を出した上で、不眠時頓服として数錠追加することもある。
譲り受けるケースもある。「旅行中、眠れない友人がいたので手持ちの眠剤を少しわけてあげました。足りなくなったので眠剤出してください」と訴える患者さんもいる。さすがに少しお説教するが、本人に罪悪感はない。
溜め込んでいるケースもある。医師は患者さんが順調だとあえて処方内容を変えないことが多い。「よく眠れています」と患者さんが言っても「では眠剤止めましょう」とはなかなかならない。それほど不眠症というのは「完治」が難しい。厚生労働省の報告によると、日本では一般成人の30〜40%が何らかの不眠症状を有しているそうだ。
慢性不眠症は成人の約10%に見られ、その原因はストレス、精神疾患、神経疾患、アルコール、薬剤の副作用など多岐にわたる。加齢とともに不眠症状は増加し、60歳以上では半数以上の方が不眠症とされている。また、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症などの大きな災害があった後には一過性に増加するとされている。日本では成人の5%が不眠のため睡眠薬を服用しているというのが現実だ。実際、医師や政治家でも睡眠薬を常用している人は多い。
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