陸自の広帯域多目的無線機は使えない(上)
Japan In-depth / 2023年6月14日 18時0分
この件に関して筆者はその後も何度か大臣会見で質問したが、歴代大臣は答えられず、それに対する本年(2023年)4月防衛省の回答は次の通りだ。
「陸上自衛隊の広帯域多目的無線機は、陸上自衛隊の使用目的や運用ニーズを踏まえて開発を行ったもので、音声通信や動画の送受信に加え、メールの送受信、位置の把握、状況図の共有、部隊等の位置の共有、緊急性の高い状況の発信・受信などのデータ通信を行う機能を備えています。
広帯域多目的無線機は、平成24年度以降逐次整備してきたところですが、能力向上のための改修も逐次実施しています。引き続き、部隊運用に万全を期すとともに、今後、技術の進展を踏まえた対応についても検討することとしています」。
つまり問題は全くない、ということだ。そうであれば、なぜ会計検査院から指摘されたのか。実は陸自の無線機が通じないというのは昔からだった。それはそもそも総務省が割り当てている、無線の周波数帯が軍用に適していないことが大きい。筆者は長年それを指摘してきた。演習ですら、無線が通じずに、隊員の個人の携帯電話がないと演習ができないという有様だった。これは多くの隊員が首肯するところだろう。
その警告は2011年に発生した東日本大震災という「実戦」で明らかになったことを筆者は過去何度も報じた。だが多くのメディアは自衛隊の活躍の「美談」報道に終始してこの事実を報じなかった。
陸自の無線が通じなかったのにはいくつか理由がある。世代が異なる無線機で通信できないことが多発した。そもそも無線機の充足率が足りずに「なかった」部隊もあった。これが演習であれば他の部隊から借りて来ればなんとかなったが、陸自のほぼ総力出動となったこの震災では不可能だった。
だが最大の問題は陸自の無線機が軍用戦術無線機に適さない周波数帯を割り当てられていることだろう。通信は「軍隊」の神経組織だ。それを陸自は長年軽視してきたのだった。震災後、さすがに無線が通じなかったことは問題となり、調査も行われたが、周波数帯の問題は放置されて、開発中だったコータムがそのまま採用された。
▲画像 広帯域多目的無線機 試作品概念図 出典:防衛省技術研究本部 「新野外通信システム」外部評価報告書(2011年12月20日)
先述のように筆者はこの件に関して防衛省に問い質し、情報通信課から周波数帯についてなんの問題もないと説明を受けた。だが常識的に考えても他国の使用する周波数帯から外れた特性が全く異なる周波数帯でなんの問題もないはずがないのは子供にでもわかる理屈だろう。
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