「マイナンバーカード・トラブル」③~医療DX有用論の行方
Japan In-depth / 2023年7月21日 12時14分
渋川智明(東北公益文科大学名誉教授)
渋川智明の「タイブレーク社会を生きる」
【まとめ】
・個人医療情報が共有できる電子カルテに期待。
・マイナポータルは使い方が複雑でまだあまり役に立たない。
・医療DX加速化への期待と現状には大きな距離感がある。
■ カルテの標準化と共有化へ
マイナンバーカード・トラブルで、来年秋のマイナ保険証の廃止期限の延長論が高まり、カード返納者まで出ている。政府はコンビニでの公的証明書発行、行政事務手続き、医療機関の事務効率化など目先の便利さや利点ばかりを強調し、カードの普及を急ぎ過ぎるあまり、システム、人為的ミスの続発と対応に追われている。
「マイナンバーカードはデジタル社会へのパスポート」と岸田首相はマイナカードの有用論を掲げている。コロナ禍で明らかになった公的給付金などの行政事務の効率化は当然のこととして、マイナ保険証との一体化で加速する可能性がある医療DX推進論はあまり伝わって来ない。岸田首相は政府の医療DX推進本部の本部長でもある。
医療DXは傷病名、診療内容などが記録された、紙を含むカルテ(診療録)など医療・薬剤の膨大な情報を標準化して、共有できるデジタル化にするシステムを指す。医療の質を向上させるのが一番の目的だ。超高齢社会において、病気がちの高齢者や複数の既往症患者は救急時、或いは突然の災害時にいつ何時、どこの地域の病院に運ばれても個人の医療情報が共有できる電子カルテ、「持ち歩けるカルテ」の実現に期待している。
現在、総合病院や大学付属病院など高度医療機関ではほとんどの病院に電子カルテが導入されているが、システムの業者や、使い方、情報言語などが違うと、医療情報の迅速なやり取りができない。極端に言えば、いわばバラバラで標準化・共通化していない。紙のカルテもある。このため重要な診療項目を標準化して、共用できるシステムにする。マイナ保険証からマイナポータルを通じて個人の医療情報、カルテ(診療録)にアクセスできるようにする。
徹底した個人情報管理と患者の同意、医師との承諾・信頼関係に基づく基準など様々な課題も多い。「持ち歩ける」は、言い過ぎかもしれないが、分かり易い。
政府や厚生労働省は、他にも医療DXはオンライン診療、介護と医療の連携、財政が硬直化している医療保険の改革など多くのメリットを挙げている。
デジタル化に向けた制度の推進には野党も反対はしていない。必要性を認める意見多い。ところが現状の政府・内閣の対応や運用があまりに場当たり的なので、有用論との距離感が縮まるどころか、遠くなってはいないだろうか。
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