ワグネルとイスラム国(下) ロシア・ウクライナ戦争の影で その5
Japan In-depth / 2023年8月5日 18時0分
「あなたたちの息子か、囚人か、いずれかが戦場に赴かねばならない。選択するのは、あなたたち自身だ」
と言い放ったと伝えられる。
またしても余談にわたるが、旧ソ連邦地上軍も、第二次世界大戦に際しては、こうした囚人部隊を編成したし、諸国の軍隊において実例は意外と多い。
ただ、旧日本軍においては、徴兵制度は「天皇に身命を捧げる、名誉ある義務」であったために、禁錮以上の刑に服した者は釈放後も一定期間は公民権が停止され、召集されることもなかった。山口組三代目として知られる田岡一雄も、組事務所に殴り込んできたヤクザを返り討ちにした殺人事件で実刑判決を受けたために、はからずも「民間人」として終戦を迎えたという。
話を戻して、そのようなワグネルであったために、次第に正規軍のトップであるロシア国防省との間で、軋轢が生じるようになった。
前回、今年に入ってからプーチン大横領がワグネルについて、突如としてその存在を公認するような発言をしたのは、囚人兵まで動員せざるを得なくなった事態を正当化するためと、国防省筋をなだめる必要が生じたという、ふたつの理由によるものかと思われる。
いずれにせよワグネルの側では、ウクライナによる反転攻勢にさらされるようになると、自分たちには弾薬も満足に支給されず、要は正規軍の「弾よけ」にされている、といったフラストレーションを抱えるようになったらしい。
6月10日には、国防省からワグネルに対し、あらためて国防省(=正規軍)と直接の契約関係を結ぶことを要請したのだが、プリコジン氏は早くも翌11日、これを拒否する声明を発表した。その後彼は、ロシアによるウクライナ侵攻の正当性までも否定するような発言を繰り返し、プーチン大横領との蜜月に自ら終止符を打った。
直接的な標的は、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相やワレリー・グラシモフ参謀総長であったとされるが、彼ら「腐敗した軍上層部」に掣肘を加えるとして、ウクライナの戦闘地域にある兵力をモスクワに向ける「正義の行進」を介しうると宣言し、直ちに行動に移した。6月23日のことである。
この「行進」は、モスクワまで200キロメートル弱の位置まで兵を進め、プーチン政権側は、市内に多数の軍用車両が配備するなど厳戒態勢に入ったが、今やロシアにとって数少ない同盟国であるベラルーシが仲介に乗り出し、最終的には48時間を経ずして収束した。
プリゴジン氏の消息については、情報が錯綜していて、よく分からないが、悪名高いロシアの情報機関を敵に回して、このまま無事に済むとは考えにくい。
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