ワグネルとイスラム国(下) ロシア・ウクライナ戦争の影で その5
Japan In-depth / 2023年8月5日 18時0分
傭兵や囚人兵については、ロシア軍の傘下に入るもよし、ベラルーシに留まるもよし、ということになったようだが、多くは再び「弾よけ」にされることを嫌って、後者の道を選んだ。彼らがベラルーシの兵士を訓練する動画も公開されている。
ワグネルの本部はサンクトペテルブルクにあったが、ここもすでに退去済みで、事実上、組織実態は失われたと言ってよい。
そして、この影響が思わぬところに波及している。
イスラム国が息を吹き返しつつあるのだ。
2006年に結成されたとされているが、アル・カイーダと共闘関係を構築するなど、イスラム過激派として広く知られるようになったのは、2012年頃からである。
最盛期には、中東の数カ国にまたがって30万平方キロメートル(日本の国土面積のおよそ8割にも達する)を支配下に置いたが、米軍を中心とする有志連合の反撃を受け、今や特定の支配地域はなくなり、構成員も最盛期の5%程度にまで減少したとされていた。
この間の経緯については本連載でも触れたことがあるが、ごく簡単に復習すると、ある街を武力制圧し、周囲の交通路を確保することで「領土」を拡大しようとしたならば、ハイテク兵器を豊富に揃えた有志連合に対して不利になることは、火を見るより明らかだったのである。
ところが昨年来、中東に配備されていたハイテク兵器は多くが引き上げられ、一部はウクライナに供与されたが、これは逆に言えば、イスラム国に対する抑止力の減退を意味する。
そのこととワグネルがどう関係するのか、と疑問に思われた向きもあろうが、そもそも彼らは傭兵集団であり、ウクライナ以外にも中東やアフリカにも兵力を送り込んでいた。
それが、くだんの反乱の結果、ロシアに戻って活動を続けられる見込みをなくしたワグネル麾下の傭兵たちは、ほとんど「現地解散」状態となり、組織的な活動を継続できなくなっている。
特に問題なのが、中央アフリカだ。
中央アフリカ共和国は、その名の通りアフリカ大陸中央部に位置する国で、面積は日本の1.6倍に達する(約63万平方キロメートル)一方、人口は500万人足らずである。
1960年に、フランスによる植民地支配から脱して独立したが、その後クーデターが続発して政情はまったく不安定であり、特に2013年にはイスラム武装勢力が暫定政権を樹立し、2016年に民政に復帰したものの、政府の権力基盤は脆弱で、各地に武装勢力が跋扈する「群雄割拠」の状態となっている。
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