「遺産争い」は中韓が勝つ?(上) ロシア・ウクライナ戦争の影で その6
Japan In-depth / 2023年8月8日 7時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ロシア軍はウクライナとの戦争で1万両近い装甲戦闘車両を喪失した模様。
・米韓台湾製の半導体が、中国や香港経由でロシアに流れていた。
・韓国の軍需産業が次々と大型契約を勝ち取っている事は事実。
すでに大きく報じられている通り、ロシア軍は今次のウクライナとの戦争で、すでに約2000輛の戦車を含め、全部で1万両近い装甲戦闘車両を喪失した模様である。
この結果、インドに輸出される予定であったモデルが急遽投入されたり、倉庫に眠っていた旧式戦車まで引っ張り出してくる始末だ。
今年6月下旬からは、なんと1950年代に開発されたT-55戦車が投入された。
1958年に登場した時点では、画期的な存在とされ、主砲の口径から「100ミリ砲ショック」と称されるほどのインパクトを西側諸国に与えたものだが、実に60年以上前の話である。
ただ、1970年代まで製造が続けられ、中国でライセンス生産された「59式」を含めた生産数は10万輛を超す。インドシナの戦役で当時の北ヴェトナム軍が多数使用したのもこの59式で、南ヴェトナムの首都サイゴン(現ホーチミン市)にも一番乗りした。
現在は軍事博物館に飾られており、10年ほど前にかの地を旅行した際に初めて実物を見たが、
(ずいぶん小さいな。これじゃ、内部は狭くて大変だろう)
などと思ったのを覚えている。
他にも多数が輸出されており、1990年代の湾岸戦争、イラク戦争でも、サダム・フセイン麾下のイラク軍によって実戦に投入された。この時点ではすでに旧式化は隠しようもなく、米国製M1、英国製チャレンジャーといった新型戦車に対しては100ミリ砲弾など、たとえ命中しても「装甲板をわずかに焦がしただけ」であったという。
そのような骨董品が今次ウクライナに投入されたわけだが、これを本当に機甲戦に投入するほど、ロシア軍はおめでたくない。先月、1輌のT-55がウクライナ軍によって破壊されたが、内部に大量の爆発物が積まれていたという。
無人で、遠隔操作によりウクライナ軍の陣地に突入を図ったが、対戦車地雷で履帯(キャタピラ)を破損し、立ち往生したところに対戦車ロケット砲の集中砲撃を浴びたという。
もしも突入に成功していたら、貧弱な装甲が逆に功を奏して、爆風効果と破片効果で、多数のウクライナ兵を殺傷したかも知れない。
ロシアはついに特攻にまで手を染めたわけだが、人命が失われないことを考えれば、これは侮りがたい。
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