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高校野球の弊害について(下)日本と世界の夏休み その3

Japan In-depth / 2023年8月14日 17時0分

 これも広く知られた事実だが、野球名門校と称される私立高校は、特待生制度などで全国から有望な中学生をかき集めている。東北地方には、全校生徒の3分の1が野球部員という学校も実際にあると聞く。


「俺なんかレギュラーになれっこない」


 と思い知らされた兄は、野球部を辞め、一時はグレてしまう。そんなある日、ヒロインが帰宅すると、切断したドラム缶で火がたかれている。なにをしているのか、と問う彼女に、妹が「お兄ちゃんを解放する儀式」であると答える。グローブやスパイク、さらにはスコアブックやノートなど、息子をプロ野球選手にしたい、という父の願いが込められた品々が、すべて火にくべられ、今日からは好きなように生きろと言い渡される。息子はと言えば、


「野球しかやってこなかったから、好きなように生きろと言われても……」


 と困惑するばかり。ここでヒロインが発破をかけるシーンが素晴らしいのだが、ネタバレになるので、ここでは置く。


 これはいささか極端な例ではあるのだろうが、高校の部活で期待されていながら挫折した者が非行に走った例は、意外とよく見聞する。非行と言っても多くの場合は、ケンカや飲酒喫煙程度だが、当人たちにとっては、高校球児という肩書きからの「解放の儀式」であるのかも知れない。それで思い出したが、帝京高校野球部OBの石橋貴明が、当時を回想して、


「遊びたい盛りなのに、まるで修行僧みたいな生活」


 であったと語ったことがある。その、肝心の部活においては、盗むとか刺すとか殺すとか、破戒の限りを尽くしていたことになるのだが笑。


 もっとひどい例もある。関西の某商業高校とだけ述べておくが、ここは野球と並んで、ケンカの強さでも近隣に鳴り響いていた。しかしながら、他校とケンカになっても、


「野球部員だけは巻き込まない」


 という不文律があったと聞く。「部員の不祥事」を避けるためらしい。


 こういうことになるのは、高校野球が「爽やかな青春」のイメージと二重写しになっているからであり、そのまた背景にあるのは、この道一筋、とか、世俗的な欲求には目もくれない、それこそ修行僧のような生き方を礼賛する、日本社会の伝統的な価値観だろう。


 プロの世界においては、いまや日本で実績を残した選手が海を越えて米メジャーリーグで活躍するのが当然のようになってきて、だいぶ様変わりしてきているが、ほんの20年くらい前までは、


「日本の野球はベースボールではなく〈野球道〉だ」


 などということが、当たり前のように言われていたのである。


高校野球には未だこうした「野球道」が生きている、というのが人気の源泉であるのだとしたら、もはや時代錯誤であるということに、早く気づいて欲しいものだ。


(その1,その2)


トップ写真:福井県営球場で行われた高校野球大会 2011年7月25日 福井市(記事とは関係ありません)


出典:Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images


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