ロシア、85年前の武力衝突で日本非難 制裁の報復か、北方領土でけん制も
Japan In-depth / 2023年8月17日 23時0分
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・ロシア外務省が85年前に起きた日ソ間の武力衝突を巡り唐突に日本を非難する声明を発表。
・ウクライナ戦争での制裁に対する報復とみられるが、北方領土返還要求批判など無関係な問題に言及する牽強付会な内容。
・日本政府は、抗議などはしていないが、先方の根拠のない主張を容認することになりはしないか。
怪談は夏の定番だが、この〝怪説〟には背筋が寒くなった。
1938年に日ソ両軍が衝突した張鼓峰事件(*1)の停戦記念日にあたる2023年8月11日の声明でロシア外務省は、事件を日本による「ソ連を攻撃する計画実行の序曲だった」と非難、「第2次大戦の結果」を認めるよう要求し、暗に北方領土は自国領だとする不当な主張を展開した。
ソ連を攻撃する計画というのが何をさすのか不明だが、北方領土は張鼓峰事件、第2次大戦の結果いずれとも関係のない日本固有の領土だ。
厚顔無恥の暴論に日本政府は断固として抗議すべきだろう。
■「ソ連攻撃の秘密計画の序曲」
ロシア外務省報道官の声明は、「日本軍は国境警備隊を攻撃したが、ソ連側は任務を遂行し敵軍を国境外に撃退した」として、日本側の一方的な行動による「挑発」との見方を示している。
そのうえで、唐突に岸田政権の外交政策に言及、「再軍備化を進める現在、こうした歴史の教訓に目を向けることは重要」と強調、「第2次世界大戦の結果を認め、靖国参拝の慣行をすてるよう」要請している。
■ウクライナ情勢の苦境反映との見方も
張鼓峰事件の原因をめぐっては、ソ連国境警備隊が現地で軍備を増強、軍事施設を築いたためという見方もなされており、原因究明は歴史家に委ねられた格好になっている。
そうした戦前の軍事衝突をめぐって、ロシアが突然日本を非難する声明を発表したことについて訝る向きも少なくない。
「ウクライナ侵略で日本も強い制裁を科していることへの反撃ではないか」、「日本批判を展開しなければならないほど、ウクライナ戦争が苦しい状況なのではないか」などの推測がなされている。
■理解できぬ張鼓峰と領土問題関連づけ
声明の我田引水ぶりがはなはだしいのは「(停戦の)記念日に思いを馳せつつ、日本政府に第2次大戦の結果を全面的に認めるよう」要求していることだ。
「大戦の結果」というのは、ロシアが北方領土返還要求を拒否する際に決まって持ち出す論理。クリル諸島(北方領土のロシア名)は、戦争でソ連が得た領土だから、その結果を認めて返還要求をやめよという理屈だ。
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