「8月の平和論」の危険性
Japan In-depth / 2023年8月17日 11時0分
日本の自衛のための戦いはいまの憲法の自縄自縛のなかでも認められているのだ。だが「8月の平和論」はその自衛の行動さえも戦争の否定として禁じるというのである。
戦争の前段階には武力による威嚇もある。外国による軍事的威嚇はまず具体的な要求を伴う。
日本がもし武力での侵略の脅しを受けた場合、どうするのか。「8月の平和論」では純粋な自衛行動も含めて、いかなる戦争もノーなのだから、威嚇を受けた場合も降伏ということになる。日本国民が独自に営々と築いてきた民主主義の国家、繁栄する社会を外敵に対して、なんの抵抗もせずに譲り渡すこととなる。
通常の国家であれば、外国からの軍事的威嚇を実際の侵略へとつなげないためには、断固たる抑止という態度をとる。相手がもし攻撃をしてくれば、こちらも反撃をして、手痛い損害を与える。その構えが相手に侵略を思い留まらせる。それが抑止の論理であり、現実である。だがこの論理にも現実にも一切、背を向けているのが日本の「8月の平和論」なのだといえる。だからこの「平和論」は日本の国家安全保障には危険なのだ。
日本の「8月の平和論」はいつも内向きの悔悟にまず彩られる。戦争の惨状への自責や自戒が主体となる。とにかく悪かったのは、わが日本だというのである。日本人こそがまちがいや罪を犯したからこそ、戦争という災禍をもたらしたという自責が顕著である。その自責はときには自虐にまで走っていく。人間の個人でいえば、全身の力を抜き、目を閉じ、ひたすら自己の内部に向かって自らを責めながら、平和を祈る、というふうだといえよう。そしていかなる武力の行使をも否定する。
だがこの内省に徹する平和の考え方を日本の安全保障の観点からみると、重大な欠落が浮かびあがる。国際的にみても、異端である。日本の「8月の平和論」は平和の内容を論じず、単に平和を戦争や軍事衝突のない状態としてしかみていない点が欠落であり、異端なのだ。その平和への希求は、戦争のない状態の保持の絶対性を叫ぶだけに終わっている。守るべき平和の内容がまったく語られない点が特徴なのだ。
「平和というのは単に軍事衝突がないという状態ではない。あらゆる個人の固有の権利と尊厳に基づく平和こそ正しい平和なのだ」
この言葉はアメリカのオバマ大統領の言明である。2009年12月10日、ノーベル平和賞の受賞の際の演説だった。
平和が単に戦争のない状態を指すならば、「奴隷の平和」もある。国民が外国の支配者の隷属の下にある、あるいは自国でも絶対専制の独裁者の弾圧の下にある。でも平和ではある。「自由なき平和」もありうる。戦争はないが、国民は自由を与えられえいない。国家としての自由もない。「腐敗の平和」ならば、統治の側が徹底して腐敗しているが、平和は保たれている。「不平等の平和」「貧困の平和」といえば、一般国民が経済的にひどく搾取されて、貧しさをきわめるが、戦争はない、ということだろう。
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