8月15日に戦争は終わらなかった 日本と世界の夏休み その5
Japan In-depth / 2023年8月20日 19時26分
「僕の字は、ちゃんと読めましたか?」
「もちろんです。この手紙、一生大切にします」
やり過ぎだよ。とさえ思った。泣けた。
ヒューマン・ドラマとしては文句なしの出来なのだが、それだけに、こうした「美談」のような描き方はいかがなものか、との思いは未だに消えない。
今さら言わずもがなのことであるが、彼らは断じて捕虜ではない。戦時国際法を無視したソ連軍による暴虐の犠牲者である。
この抑留は最長11年にも及び、この間に日本は奇跡的な経済復興を遂げていた。前述の映画でも、主人公の妻を演じた北川景子が、「もはや戦後ではない」という有名な文言が書かれた『経済白書』(昭和31年版)の発行を報じた新聞の見出しを一瞥するシーンがある。無言で、複雑な感情を目だけで表現して見せた。
その演技は賞賛に値するが、問題は戦後11年を経てもなお、戦争によって受けた痛手から解放されない人々がいたという事実である。
1993年に当時のエリツィン大統領が来日した際、このシベリア抑留は「非人道的な行為」であったとして遺憾の意を表したが、ロシア政府からの公式謝罪はなく、そればかりか、実態解明や遺骨収集には徹底して非協力的だ。
日本の政治家にせよ、本当に心を砕くべきは、このように1945年8月15日以降も、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わった同胞たちに対してではないのか。
実体を伴わない終戦記念日に靖国神社を訪れ、「英霊に対する感謝」を捧げて事足れりとする態度は、このような戦争犠牲者に対する冒涜ですらあると私は考えるのだが、どうだろうか。
(つづく。その1,その2,その3,その4)
トップ写真:米戦艦ミズーリ上で降伏文書に署名する日本の重光葵外務大臣 1945年9月2日
出典:Photo by MPI/Getty Images
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