「野球中華思想」を排す(中)スポーツの秋2023 その2
Japan In-depth / 2023年9月28日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ヤクルトスワローズ、西武ライオンズの広岡達朗監督の徹底した「管理野球」は理想的なビジネスモデルだった。
・「広岡イズム」賞賛は、終身雇用制を軸とする日本型企業社会が健在だった1980年代まで。
・バブル崩壊で選手の自主性を尊重する指導者が賞賛される。その典型は「二刀流」に挑んだ大谷翔平選手。
前回、日本の企業社会においては、野球用語、もしくは野球用語から派生した表現が、ビジネスシーンでよく使われることと、その理由として考え得るのは、日本のサラリーマンは、例外なくプロ野球に深い関心がある、という思い込みではないのか、と述べた。
これを私は「野球中華思想」と呼ぶのだが、そう述べたそばから、プロ野球の監督や選手について、難の注釈も添えずに名前だけ紹介したりした。
これは、私に言わせればやむを得ないことで、自己弁護だと言われることを覚悟の上で開陳すれば、歴史的な中華思想も、中国共産党の覇権主義も認められるものではないが、漢字や中国古典由来の格言を抜きに、日本の言語生活は成り立たない、というようなものである。
野球が日本で最も人気のある観戦スポーツであることは事実で、その経済効果が軽視できないことも事実であると、やはり前回述べた。
私が言いたいのは、ものには限度ということがあるのでは、ということで、日本の野球ファンは、ゲームそのものを楽しむよりも、球団の「お家事情」だの人事だのと言った、本質的でない部分にばかり注目しすぎるように思えてならないのである。
今年の阪神タイガースを率いた岡田監督は、巧みな采配とユーモアあふれる言動で、今や「理想の上司」と見なされている感があるが、彼はあくまでプロ野球の一球団の監督という、特殊な立場で特殊な才能を発揮したのであり、それ以上でも以下でもない。
これは『武士道の真実 〈読み直す〉日本史』(アドレナライズより配信中)という本の中でも述べたことだが、戦国武将と称される人たちも、やはり特殊な時代にあって特殊な才能を発揮した人たちで、現代のビジネスシーンで参考になるとは考えにくいのではないか。
端的に、部下をさんざんこき使った後、用済みとなれば冷酷に斬り捨てるような経営者に、
「俺は織田信長だ」
などと気取られたのでは、働く者はたまったものではない。
野球に話を戻すと、岡田監督以上に格好の例と思えるのが、広岡達朗氏だ。
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