「野球中華思想」を排す(中)スポーツの秋2023 その2
Japan In-depth / 2023年9月28日 11時0分
現役時代は巨人でショートを守り、指導者に転じてからは、ヤクルトスワローズ(1974~79年)、西武ライオンズ(1982~85年)の監督に就任するや、それまで弱小と見なされていた球団を、リーグ優勝・日本一へと導き、名監督の名をほしいままにした。
とりわけ、選手に菜食を奨励するなどの徹底した「管理野球」が注目を集め、当時は管理職のお手本のように語られることが多かった。
ただ、これも当時から一部では言われていたことなのだが、広岡氏の「管理野球」の手法がビジネスにも応用できるなどと本気で考えているのならば、どうして親会社の西武グループが、彼を人事あるいは労務担当の役員としてスカウトしないのか、という話である。
さらに言えば、成績を上げるためとは言え、従業員(=選手)の食生活まで厳しく管理することなど、今ならばコンプライアンス的にどうなのか、という話になるのではないか。
私などは、管理野球を標榜するのなら、プロ野球選手か悪徳不動産業者しかあり得ないようなスーツの着こなしもなんとかしろよ、などと言って笑っていたものだが、これは余談。
高名な数学者がどこかで書いていたが、数学を学べば頭がよくなる、というのは幻想で、数学以外の能力が伸びることは考えにくいそうである。理数系の成績がふるわなかった「ド文系」の私にとっては力強い言葉であったが、スポーツの場合は、これがさらに顕著だと言えるのではないだろうか。
本連載でも以前触れたことがあるが、小学校時代から野球漬けのような生活をしていた若者でも、プロ野球選手として成功するのはごく一部でしかない。また、たとえ成功しても、その「成功体験」が野球以外の場で生かされた例など、まず聞かない。
とどのつまり、選手の私生活から食事まで管理する「広岡イズム」が理想的なビジネスモデルであるかのように語られたのは、終身雇用制を軸とする日本型企業社会がまだまだ健在だった1980年代までの話であった。
ここでくだくだしく説明するまでもなく、その後わが国の経済は、バブル景気とその崩壊を経て、長い低迷期に入り、その過程で世に言う「日本的経営法」も批判的に語られることが多くなった。当然の結果として、選手の自主性を尊重する指導者が賞賛される傾向が強まり、その典型的な例が投打の「二刀流」に挑んだ大谷翔平選手の例だろう。役割分担を重んじていた従前のプロ野球では、考えにくいことである。
ここで再び、そもそも論に立ち返ると、プロ野球の選手というのは一人一人が個人事業主なのであって、契約期限までもが厳格な、非正規雇用そのものなのである。
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