「野球中華思想」を排す(下) スポーツ2023 その3
Japan In-depth / 2023年9月29日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・地球規模で見たならば、野球はマイナーなスポーツだ。
・そのあたりのことを理解できていない日本人が多い。
・日本以外で将棋など見たことも聞いたこともないと言う人が圧倒的多数。
1984年、ロサンゼルス五輪での話である。
台湾対米国の野球の試合に、中国選手団が大挙応援に駆けつけ、野球のルールなど分からないのに、台湾選手の一投一打ごとに拍手と大声援を送り続けた。
これは、政治的な対立関係を超えた民族の連帯感を示すものと、当時まことに好意的に取り上げられたのだが、実際のところは「政治利用」だったのではあるまいか。
1980年に開催されたモスクワ五輪を、前年のソ連邦(当時)によるアフガニスタン侵攻に抗議するためとして、日本を含む西側諸国およびイスラム諸国の多くがボイコットし、その報復として当時の社会主義諸国がロサンゼルス五輪をボイコットするという事態が起きていたこと、そのような中でも中国は資本主義諸国との融和路線にいち早く舵を切り、五輪にも参加していたことから、中国と台湾の融和も期待できる、というように。
実はこれ、拙著『野球型VS.サッカー型』(葛岡智恭と共著、平凡社新書。電子版アドレナライズ)の冒頭で取り上げた話題なのだが、このテーマにおいて避けては通れないので、あえて再録させていただくことにした。
なにを読者にお伝えしたかったのかというと、前述の政治的な問題以上に、中国においては五輪に参加できるレベルのアスリートでさえ、野球のルールを知らなかった、という事実である。
これまた前掲書で取り上げた話題を採録させていただくと、20世紀の終わり頃、上海など大都市で暮らす中国人を対象とした調査では、マンチェスター・ユナイテッドというサッカーのクラブについて、およそ8割もの人が「聞いたことがある」と答えたのに対し、野球のルールを知っている人は皆無に近かったそうだ。
そのような中国にも、今ではプロ野球が存在するのだが、所属しているのは4チームで、年間試合数も30にとどまる。これでどうしてプロを名乗れるのか不思議だが、旗揚げされたのが2019年のこととであるから、新型コロナ禍の影響という要素も考えられるし、今後のお楽しみ、といったところだろう。ただし野球ファン限定だが笑。
一方、中国のプロ・サッカーリーグ中継は7億人近くが視聴すると言われている。
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