失われゆく天・地・人の恵み ~より高いコストに備えなくてはいけない日本経済 ~
Japan In-depth / 2023年10月4日 17時0分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・日本経済が享受していた天・地・人の惠みいずれもが失われつつある。
・安全保障、地球環境保全…高コスト化を乗り越える知恵を出し合う空気の醸成が重要。
・人口減少の中、多くの者が課題の解決にエンゲージできれば、新しい幸せを感じる社会が訪れるはず。
日本経済は、ついこの前まで、天・地・人の恵みをふんだんに享受していた。
独立国家でありながら、安全保障への出費を低く抑えながら、しかしその独立が脅かされることはなかった。78年前の敗戦の教訓が生かされたとは言え、それは天の恵みではなかったか。関係国も、日本が独力で国家の安全保障を確保する力を持つことを望まなかった。そうした中、日本は経済発展に主眼を置くことができた。その発展も、地球資源を低コストで使うことができたからこそ実現できたものだ。まさに地の恵みである。そして、そのような経済活動を、働く人の数が増える環境で行うことができた。それは人の恵みであった。
ここへ来て明らかになりつつあるのは、いずれの恵みも失われつつあるということだ。時間の経過に沿って言えば、まず人の恵みは、1990年代後半に生産年齢人口が減少を始め、次第に失われつつある。そして、2010年代に入ると、国連での持続可能な開発目標、SDGsの採択に典型的なように、もはや地球環境を破壊しながらの経済成長は続けられないというムードがグローバルに強まっている。地の恵みもこれまでのようにはいかない。さらに2020年代に入ると、米中対立の激化、ロシアのウクライナ侵攻といった出来事の中で、日本ももっと国家を守る力を強化しなくてはいけないという議論が強まっている。天の恵みもまた変わりつつある。
■ 高コスト化する日本経済の置かれた環境
このように、日本経済が置かれた環境は、総じて高コスト化していく方向にある。これまでが格別に恵まれていたのだと考えるべきだろう。コストが高くなるので、すわ窮乏化という話にもなりがちだが、環境が厳しくなることが、即、日本に生きる私達の不幸に直結する訳ではない。日本よりもずっと厳しい環境の中で幸せに暮らしている人もたくさんいる。
むしろ、薄々は分かっていながら、目の前の不都合に目を塞ぎ、本質的な問題の解決を先送りし続けることの方が、心理的には不健全だし、それが社会にストレスを生む面もあるのではないか。日本経済の未来をしっかり見据え、これまでのようにはいかない環境を乗り越える知恵を出し合う空気の醸成が重要だ。その面で政治の果たす役割は大きい。
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