1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

えげれす国紫煙譚(上)たまにはタバコの話でも その3

Japan In-depth / 2023年10月27日 23時0分

斜面で火災が起きると炎と煙が一挙に上昇する「トレンチ効果」が起きて、エスカレーターの地上側近くにあったチケット売り場に並んでいた多数の乗客が、逃げる間もなく黒煙と炎に巻き込まれてしまった。この現象(トレンチとは戦場に掘る塹壕のこと)は、当時の英国では「未知の現象」「想定外の事態」などと言われたが、陶芸の伝統が長い日本では「登り窯」の原理として知られている。





こうした悪条件が重なった結果、死者31名、救急搬送された負傷者100名、うち19名は重度の火傷を負うという大惨事となってしまった。





これを受けて、LT(ロンドン・トランスポート=地域交通局)の総裁と、運行管理担当の上席役員が辞任したほか、LT管理下の全ての駅で、エスカレーターから木製の羽目板を撤去し、金属製と交換されることが決まった。





そして事件から5日後の11月23日には、LT管理下の駅構内すべてを禁煙とする、と公式に発表されている。と言うのは、そもそも火災の原因は、エスカレーターの機関部に埃や紙くず(ハンバーガーの包み紙とか)といった可燃性のゴミが溜まっていて、そこに火のついたままのタバコが投げ捨てられたことによるものだと判明したのだ。





1990年代の半ば頃から、出版業界で「イギリス・ブーム」と呼ばれる現象が起き、かの国を褒め称える書籍が相次いでベストセラーとなった。





それらの内容が、前述の、小学校時代の道徳の教科書も裸足で逃げ出すほどひどいものだったので、穏健派の私もさすがに黙っていられなくなり、97年に『イギリス・シンドローム』(KKベストセラーズ、電子版アドレナライズ)という1冊を世に問うた。





様々な「礼賛本」を俎上に載せて、そのデタラメぶりを批判したものだが、本項のテーマに即したところで言うと、ロンドンの地下鉄に関して、





「イギリスでは、ゴミはみんな自分で持ち帰るのが当たり前になっている」





などと書いてのけた、英国貴族と結婚した日本女性がいたので、前述のキングス・クロス火災を例にとり、そこまでモラルの高い国でどうしてこのような惨事が起きたのか、と述べ、さらにはカッコ付きで、





(そんなのは全部、有色人種の移民の仕業だ、などとは、まさか言い出さないでしょうな)





とトドメまで刺しておいた。





ただ、今さら英国人をフォローするわけでもないが、かの国の人たちは、決められたことは守る。つまり、駅構内は禁煙とのお達しが出て以降、喫煙者をとんと見かけなくなった。





その後21世紀に入って、喫煙者自体が絶滅の危機に瀕している。次回、その話を。





トップ写真:31人が死亡した地下鉄キングスクロス駅の火災後の焦げたエスカレーター(イギリス・ロンドン 1987年11月18日)出典:Photo by Keystone/Hulton Archive/Getty Images




この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください