福島になぜ高血圧患者が多いのか
Japan In-depth / 2023年10月29日 19時0分
この状況に危機感を抱いた相馬藩は、他国の農家の次男・三男を移民させて農業の復興をはかった。呼びかけに応じたのが、越中の浄土真宗の門徒たちだった。今でもこの地には「番場」など北陸の姓が多いのは、このような歴史があるからだ。
この地域では、現在も塩辛い味を好む人が多い。浜通りのラーメンを評したブログには「味が濃くて美味しいんですが、このチャーシューの塩分がスープにも出てしまって後半はスープを塩辛く感じてしまいます」などの記載がある。東北地方の太平洋岸で、この地域だけ塩分が高い食事を好むのは不思議だ。これは、このような移民者たちが持ち込んだ食文化と考えられている。
塩分の過剰摂取は血圧を上げ、脳卒中を増やす。浜通りは東北地方でもっとも脳卒中の頻度が高い地域として知られている。脳外科医で南相馬市立総合病院の院長を務める及川友好氏は「東日本大震災後に脳卒中が急増した」という。元から高血圧があるところに、原発事故で避難生活を続けるストレスが加わったためだが、原発事故後、及川氏は仮設住宅を周り、健康相談に乗るとともに、減塩の必要性を説いて回った。
私は、福島の人と高血圧の話をする時、必ずこのような歴史を伝えることにしている。自分が意識していない歴史が、自らの嗜好に影響しているからだ。このような背景を知ると、減塩の動機づけもやりやすくなる。
高血圧管理で、もう一つの大切なことは個別化対応だ。血圧管理の目的は大動脈解離や脳出血などの血管障害を予防することだ。このような合併症のリスクは人により異なる。特に家族歴に注目することは重要だ。
例えば、2020年に台湾の研究者が発表した研究によれば、一親等(親や子ども)に大動脈解離の患者がいる場合、そのリスクは6.8倍にも高まる。大動脈解離の発症には複数の遺伝子が関係することが分かっている。家族歴がある人のリスクが高いのは当然だ。
ただ、この研究では、遺伝的要因が関与するのは発症の57%と推定されている。残る43%は食生活や運動などの環境要因だ。遺伝的要因があっても、生活習慣を改善することで血管障害の発症は大幅に予防できる。私が家族歴に注目するのは、親などをその病気で看取っているため、強い関心を抱いていることが多いからだ。正確な情報を知ることで、適切な行動変容に繋がる。
その場合、まずやるべきは定期的に血圧を測ることだ。血圧測定器は家電量販店やアマゾンで入手できる。測定の際に重要なのは、血圧を測る時間を一定にすることだ。それは、早朝から午前中に上昇し、昼過ぎから低下するという日内変動があるからだ。「朝、お父さんが起きてこないので見に行ったら、脳溢血を起こしていた」という話は、このような事情が影響している。
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