中国軍核戦略のAI依存の危険性
Japan In-depth / 2023年12月28日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・「米中経済安保調査委員会」が2023年度の年次報告書を発表。
・中国軍の核戦略でAIが大幅に使用され、攻撃決定が速度を高める危険性を強調。
・人民解放軍のAI利用はもちろん日本にとっても重大な懸念の対象。
「妖怪がいまヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪が」――ついこんな古い共産党宣言の言葉までを連想させられる。最近の人工知能(AI)をめぐる論議からだ。もちろん170年以上も前のヨーロッパでの共産主義についての虚実の宣言と現代の科学が立証した人口知能の現実とを同水準におけるはずはない。だがAIの真の実態や人間社会への具体的な影響をだれも正確にはわからないような霧のなかで多様な議論だけが熱を高める光景は、そんな過去の歴史の類例をも想起させるのだ。
最近のAIをめぐる内外の議論でもっとも戦慄を感じたのは、その軍事利用での核戦略への適用についてだった。具体的には中国人民解放軍の核攻撃計画への人工知能(AI)の大幅導入に関してだった。大幅導入というよりも、全面依存と評したほうが正確に思えるほどのAI使用の概念なのである。その中国側のAI導入が米中軍事バランスを崩し、核攻撃をも招きやすくする、とする警告がアメリカ側から発せられたのだった。
アメリカと中国の安全保障関係を恒常的に調査するアメリカ議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」はこの11月中旬、2023年度の年次報告書を発表した。そのなかの最重要点とも呼べる指摘がこの中国軍のAI使用についてだったのだ。
アメリカ議会のこの特殊な委員会はここ20年以上、一貫して「米中経済関係がアメリカの国家安全保障に及ぼす影響を調査する」ことを公式の主眼に研究や調査を続けてきた。その主題は自然と米中両国間の安全保障関係の調査へと帰結する。この委員会はアメリカ連邦議会上下両院の超党派の有力議員が合計12人のコミッショナー(委員)を任命することで組み上げられている。
それら委員はみな中国やアジア、軍事、戦略、外交などの専門家である。委員たちはみずから米中安全保障について調査する一方、そのときどきの重要テーマについて、さらに個別の分野の専門家を動員して、研究や討論をさせる。その総括は毎月の公聴会や年次報告書、さらには随時の特別報告書にまとめられ、究極的にはアメリカの政府と議会に対する具体的な政策の勧告となる。
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