冬休みのオススメ本(上)年末年始に備えて その6
Japan In-depth / 2023年12月30日 11時30分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・この休暇中に読んで欲しいオススメの本を紹介。
・『サピエンス全史』。これまでの常識を否定する点で「21世紀進化論」に通じる。
・『巨悪vs言論(上・下)』。昔も今も派閥と金権から自由になれない政界について解説。
岸田首相はこの年末年始、読書にいそしむほど心のゆとりがあるだろうか。夏休みには、世に言う「日ユ同祖論」(日本人とユダヤ人の祖先は同一だった、という考え方)に基づいて書かれた小説を読んだ、という話が取り沙汰されていた。
休暇中に小説を読むのは結構だ。好みの問題はあるにせよ、突如、
「日本人とユダヤ人の祖先は共通である。だからわが国もイスラエルのような国民皆兵の国家にしなければならない。とりあえず、軍備につぎ込む金が必要だ。大増税だ」などと言い出したわけでもないのだし(後半は、どこかで聞いたような気もするが笑)。
実際問題として、8月11日に東京・丸の内の丸善本店を訪れた首相は、後述する『サピエンス全史』をはじめ『まるわかりChatGPT&生成AI』(野村総合研究所・編)や、『世界資源エネルギー入門 主要国の基本戦略と未来地図』(平田竹男・著 東洋経済)、小説でも『街と、その不確かな壁』(村上春樹・著 新潮社)等々、全部で10冊も購入したという(朝日新聞デジタルなどによる)。
前にも述べたが、情報の一部だけ切り取って喧伝されると、当人の人格について誤解を招く。あくまでも私の感想だが、Wikipediaのコピペを切り貼りしただけだと悪評ふんぷんのなんちゃら「国紀」を愛読書だと公言し、周囲にも推奨していた元首相との比較で言うならば、結構まともな読書傾向なのではあるまいか。
話を戻して、前掲の『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ・著、柴田裕之・訳)は、是非とも読んでいただきたい。つい最近、河出文庫のラインナップに入った。消費税込みでも1100円でお釣りが来る。上下2巻分でも、今時一杯やるよりずっと安い。世界的なベストセラーとなった本であるから、本誌の読者の中には、すでに読まれたという方もおられようが、もし未読であるなら、この機会を逃す手はない。翻訳もこなれていて、さくさく読み進めることができると思う。
とりわけ前巻は『21世紀の進化論』と題してもよかったのではないか、とさえ思えた。ダーウィンの進化論と称される書物の原題は『THE ORIGIN OF SPECIES 種の起源』であるが、言うまでもなく今に続く生物学の根幹をなしている。煎じ詰めて言うと、全ての生物は神が創造したのではなく、自然界において「生存競争」と「適者生存」の原理に基づいて進化してきた、というもの。今の我々がこれを聞いても、とりたてて驚かされたりはしないが、19世紀(初版は1859年)にあっては、それまでの常識(=聖書に書かれた天地創造)を真っ向から否定するものであった。
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