冬休みのオススメ本(上)年末年始に備えて その6
Japan In-depth / 2023年12月30日 11時30分
次にオススメしたいのは『巨悪vs言論(上・下)』(立花隆・著 文春文庫)である。どうしてこの時期にこの本なのかは、多言を要しないのではあるまいか。自民党岸田政権は今、安倍派など派閥のパーティー券キックバック問題で揺れている。もともと政治団体(=派閥)のパーティーは資金作りのためであったが、議員の当選回数などによって、パーティー券を売りさばくノルマがあり、そのノルマ以上に売った分は、派閥から領収書も要らない「裏金」として環流(キックバック)される慣例だったそうだ。
この原稿を書いている19日には、とうとう東京地検特捜部が安倍派・二階派の事務所に対する強制捜査に着手した。安倍派の場合、総額5億円もの裏金を作ったとまで言われているから、これは間違いなく、特捜部が動く案件である。大物議員が立件されるか、未だ先行きは不透明だが、時間の問題だと見る向きが多い。岸田首相は、疑惑を指摘された安倍派の閣僚らを一斉に更迭し、延命を図ったが、これがうまく行くとは考えにくい。安倍派は今も自民党内の最大派閥であり、すでに「ポスト岸田」を視野に入れた動きが出ていると伝えられる。安倍派も安倍派で、政調会長を辞任した荻生田氏が「新安倍派」を旗揚げするとか、高市派の旗揚げが先だろうとか……
前掲書のサブタイトルは『ロッキード事件から自民党分裂まで』というものだが、時系列を追って、主として雑誌に発表した記事を再構成したもので、読みやすさも抜群だ。歴史は繰り返す、という言葉があるが、自民党は昔も今も派閥と金権から自由になれないのだということがよく分かる。
今次も、まあ政局が大きく動く時の常ではあるが、色々な人が色々なことを言っている。中でも、検察の動きを一種の政治的謀略だと決めつけるような言辞が、早くも見られる。本書の下巻を、是非とも熟読していただきたい。田中角栄という政治家は、今でも再評価の動きが見られるほどで、大衆的人気という点では安倍元首相も遠く及ばず、よくも悪くも希代のカリスマであった。その彼が金権を追求され、議席を失い、最終的には逮捕されたことから、陰謀論や検察批判が沸き起こったのである。この本では、そうした議論に対して、事実に基づいた反論がなされている。
その流れで言うならば、同じ著者の『論駁 ロッキード裁判批判を斬る』(朝日新聞社)も、一読に値すると思う。高名な英文学者が、知的生活者どころか破廉恥きわまる金権政治応援団(単なる田中ファンだったのかも知れないが)であったことなどが暴き出され、これまたミステリー小説を読むような面白さを味わいつつ、どうして元首相が被告の身となったのかがよく分かる。
もっと基本的なところから、戦後日本の政治の流れを理解したいという向きには、手前味噌ながら『日本人の選択 総選挙の戦後史』(葛岡智恭と共著 平凡社新書)がもっとも分かりやすいのではないかと思う。電子版ならば、10年ごとの区切りで分冊配信されており、なんと100円台で読めるし、新書は2007年版だが、これに『2000年代 民主党政権の崩壊』を加えた合本でも1980円である。
他にも、年末年始のイベントにからんだオススメ本があるので、次回紹介させていただく。
トップ写真:イメージ(本文とは関係ありません)出典:Ian Waldie / GettyImages
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